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虚構の旅路

桜が職場で書類に目を通していると、背後からカツカツとヒールの音が近づいてきた。振り返ると、舞香が小さな笑みを浮かべながら手に資料の束を抱えて立っている。彼女は無言でその資料を桜のデスクに置き、「これ、あなたの担当でしょ?」と、あくまで当たり前のように言い放つ。


桜は一瞬、反論しようと口を開くが、舞香の表情には一切の隙がなく、その笑みに潜む悪意を感じた。ここで何かを言ったところで、舞香が「助けてあげた」とでも言い出すに違いない。桜は唇をかみしめながら、言葉を飲み込んだ。


「まあ、忙しいみたいだから、私がやってあげてもいいけど?」と、舞香は肩をすくめて言う。その声色は、まるで自分がどれだけ優れているかを見せつけるかのようだった。


「いいよ、私がやるから」と桜は静かに返す。だが、内心では怒りが静かに燃え上がっていた。


その時、近くのデスクにいた男性社員たちが舞香を見て、すぐに声をかけた。「舞香さん、今日も美しいね!」と軽い冗談が飛び交う。


舞香はすかさず、優雅に振り返りながら「もう、やめてよ~」と甘えた声を出す。男性陣は大笑いし、舞香の周りにはまるで彼女が女王でもあるかのような空気が広がる。桜はその光景を横目で見つつ、再び手元の資料に集中しようとするが、心はざわざわと騒ぎ始めた。


「ねぇ、桜も少しは愛嬌を学んだら?だから仕事が増えるんだよ」と、舞香が背を向けたまま、軽く投げかける。


その言葉は、針のように桜の胸に突き刺さった。今までは黙って耐えてきたが、限界は近づいているのかもしれない。こんな屈辱を味わうことはもう耐えられない。


桜はデスクの下で拳を強く握りしめた。「いつか、絶対に…」心の中で誓いながら、頭の中にはボルグドライグの雷光がちらつき始めていた。この静かな戦いは、きっと近いうちに爆発するだろう。


ある日、尚樹は桜に突然こんな事を言って来た。「俺の友達がさ、去年、世界を旅してきたんだよ。アメリカ、ヨーロッパ、アジア…いろんな国を回って、現地の人たちと交流したんだって。特に、フランスのパリでは芸術家たちと知り合いになって、一緒に展示会にも参加したらしい。俺もそういう経験をしてみたいなって思ってる。旅を通じて、自分をもっと成長させたいんだよな。」


桜は「友達の話」と聞いて軽く流していたが、尚樹が語るたびに、まるで自分がその経験をしたかのように話し始めていることに気づく。彼が「友達」の体験をどんどん自分のことのようにして、自慢する様子が不自然で、桜は「本当に友達の話?」と疑い始めた。


尚樹は続けて、もっと大げさに話を広げていく。


「その友達はね、イタリアで有名なシェフに料理を教えてもらったんだよ。今でもそのシェフとは連絡を取ってて、今度俺も一緒にそのシェフのレストランに行く予定なんだ。やっぱり、本物の経験を積むって大事だよな。俺も、そういう一流の人たちとの繋がりが増えてきたんだよね。」


桜は「友達の話」のはずなのに、尚樹自身がその経験をまるで共有しているかのように語り始める。自分をその友達と同等か、むしろ上に置いて話す尚樹に、桜は次第に違和感を覚え始める。「この人、友達の話を自分の手柄みたいに語ってる…?」


その後、桜が「その友達ってどんな人なの?会ってみたい」と具体的に質問してみた。尚樹は少し困惑しながら、こう答えた。


「あ、いや…最近あんまり連絡取ってなくてさ。彼も今忙しくて、どこか別の国にいるみたいだし。でも、昔はよく一緒にいたんだよね。まぁ、今度タイミングが合えば紹介するよ。」


桜はその言葉を聞いて確信した。「この話、絶対に嘘だ…」と。尚樹が友達の話を使って自分を大きく見せようとしていることに気づき、その虚言にますます嫌気が差していった。


尚樹の虚言がどんどん膨らんでいくにつれ、桜は彼に対する信頼を失っていく。特に「海外旅行」の話が、いつの間にか尚樹自身の自慢話にすり替わっていく様子に、桜は違和感を覚えるようになった。

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