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友と信じた代償

後日、桜は舞香と静かな雰囲気のカフェに訪れていた。店内には落ち着いた音楽が流れ、テーブルにはほのかな明かりが灯っている。舞香は一瞬息をつき、決意を固めたかのように顔を上げると、深刻な表情で桜に視線を向けた。


舞香:「実は…話があるの。ずっとあなたに隠してたことがあって…」


桜:「…隠してたこと?」


舞香は一瞬目を伏せ、躊躇(ちゅうちょ)しながらも話を続けた。


舞香:「実は、尚樹と付き合ってたことがあるの。」


その言葉に桜は驚きを隠せなかった。舞香の告白を聞いて、一瞬、頭の中に尚樹と舞香が一緒にいる姿が浮かんだが、今の桜には過去の関係に対する未練はまったくなかった。


桜:「そうだったの?…どうしてそんなこと、今まで言わなかったの?」


舞香はかつての恋愛を思い返すかのように遠くを見つめながら、言葉を選んで続けた。


舞香:「彼、見た目は悪くないし最初は良い人だと思ってた。でもプライドだけはやたら高くて、自分のことばっかりで…。そのうち、彼には期待するだけ無駄だって気づいたの。それで、私の方から別れたわ。」


桜は舞香の告白に胸が痛むような気持ちを抱きつつも、なぜ今この話をするのか理由が気になってならなかった。


桜:「舞香、そんなことどうして今話してくれたの?私たち、友達だよね?」


舞香は桜の目を見て少し戸惑い、視線を一瞬外す。しかし意を決したように話を続けた。


舞香:「…ごめん。実は、尚樹に対する私の…復讐心を晴らしたくて。あなたの気持ちを利用しようとしてたの。あなたを使って彼を痛い目に遭わせたかった…」


その瞬間、桜の表情がこわばった。信頼していた舞香に裏切られたと感じ、胸の奥で冷たい怒りが湧き上がる。


桜:「…私を、尚樹への復讐に?」


舞香は苦しそうに薄く息を吐き、辛そうな表情で言葉を続ける。


舞香:「あなたが彼に好かれて、最終的に彼に劣等感や嫉妬を抱かせることで、自己嫌悪に陥ることを望んでいたの。でも、今は本当に後悔している。敦司に出会って、やっと気づいたの。私が復讐のためにあなたを利用していたってことに。」



舞香は目を伏せたまま話し続け、桜は冷静さを保ちながらも胸の奥に失望と怒りが交差していた。


桜:「私を巻き込んでまで…そんなに尚樹にこだわる理由は何なの?」


舞香:「…どんなに尽くしても、彼には私の価値が見えなかった。それが悔しかったの。だから…自分の価値を取り戻したかった」


桜は舞香の言葉を聞きながら、冷たい気持ちを抑えられなかった。


桜:「それでも、私には納得できない。私はただ、尚樹が好きだっただけ。あなたがそういう理由で私を巻き込んだなんて、正直言って許せない」


舞香は辛そうに顔を歪めるが、意を決して語り続ける。


舞香:「敦司に言われたの…『自分を傷つけてまで復讐する価値があるのか』って。彼と話してるうちに、私があなたを裏切ってたってやっと気づいたの。だから今、こうして話したかった」


桜の心にわずかな共感が生まれた。敦司と出会って変わりつつある舞香の姿に、彼女が葛藤していたことが伝わってくる。しかし、それでも裏切りの痛みが完全に消えることはなかった。


桜:「私はあなたを信じてた。少しでも本音で向き合える同僚だって思ってた…」


桜の静かな口調に、舞香は顔を曇らせ、か細い声で謝罪の言葉を繰り返すしかなかった。


後日、舞香は敦司に悩みを打ち明けた。


舞香:「桜に全部話したけど、許してくれるかどうか…まだわからない。」


敦司はそっと彼女の手を取り、優しく微笑んだ。


敦司:「時間はかかるかもしれないけど、君が本当の気持ちを伝えたこと、きっと彼女も分かってくれるよ。桜さんも君も、たくさん傷ついてきたんだ。だからその痛みも、少しずつ癒していけるといい」


舞香はその言葉に少しだけ救われた気がして、そっと微笑んだ。


舞香との会話を終え、桜はカフェを出て、ふらふらと街を歩いていた。秋の冷たい風が、頬をかすめるたびに彼女の心をさらに締めつける。舞香からの「尚樹への復讐のためにあなたを利用していた」という言葉が頭の中で何度も反響し、胸の奥がズキズキと痛んだ。


桜:「…私、ずっと友達だって思ってたのに。」


小さな声が、ひとりごとのように口をついて出た。舞香とは、表面的には仕事の同僚でありながらも、何度かランチを共にし、互いに愚痴を言い合うこともあった。桜にとって、職場での人間関係は大切にしたいものであり、たとえ多少の不満があっても「友人だから」「私が少し譲ればうまくいく」と信じて付き合ってきた相手だった。


だが、その優しさや譲歩(じょうほ)が、舞香にはただの「利用価値」として見られていたのだと知り、桜は失望と怒りを隠せなかった。冷たい風が吹き付けるたび、胸に宿った怒りと失望が少しずつ大きくなる。


桜:「結局、私が譲ったり、我慢するのは…自分を傷つけてただけだったのかな」


彼女は立ち止まり、街の灯りに照らされる自分の影を見つめた。職場での関係を円滑に保つために、桜は何度も自分の不満を飲み込んできた。しかし、その「友人としての我慢」が裏切りに変わって返ってきたとき、自分がいかに無理をして付き合っていたのかを思い知らされた。


桜:「信じていた分、痛いな…」


舞香との関係がただの職場の付き合いであれば、ここまで傷つくことはなかったかもしれない。しかし、桜は「友人だ」と信じ、いつか舞香も心を開いてくれるとさえ思っていたのだ。


ふと、桜は顔を上げ、空を見上げた。都会の街明かりにかき消され、星はほとんど見えない。それでも彼女は、暗い空の向こうに微かに瞬く星を探すように、視線を彷徨(さまよ)わせた。


桜:「これからは、もっと自分を大事にしないと…」


彼女は自分の心を閉ざすことなく、誰かと真摯に向き合いたいと思っていた。しかし、それにはまず、自分の気持ちや信頼を大切にすることが必要だと気づいたのだ。


これまで、桜は「友人関係だから」という理由で多くを我慢してきた。でも、今はもう、その我慢や譲歩が「優しさ」や「信頼」ではなく、ただの「自己犠牲」だったと痛感していた。


桜:「もう、無理してまで付き合わなくてもいい。自分を傷つけてまで…」


その決意が、彼女の心に小さな温もりをもたらした。舞香との出来事を通じて、桜は自分の信頼の在り方、人との距離の取り方を見つめ直すことを心に誓った。自分を大切にしながらも、誠実に人と関わっていくための一歩を、ようやく踏み出したのだ。

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