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甘く怪しいハロウィンの夜

桜が職場でハロウィンの衣装を悩んでいると、隣にいた舞香が興味津々に声をかけてきた。


「桜、何か悩んでるの?」


「うん、ハロウィンで着るコスチュームをどうしようかなって」と桜が答えると、舞香は嬉しそうに笑い、「楽しそうじゃない!私も一緒に行きたいわ!」と目を輝かせた。


「じゃあ、一緒に行く?」と桜が誘うと、舞香は即座に頷いた。


桜は動きやすさ重視で狩人の衣装を考えていたが、舞香が「どうせならもっとセクシーな狩人にしてみたら?」と、肩が開いたデザインで脚にスリットが入ったタイトなレザーの衣装を見せてきた。


「えっ…これ、ちょっと大胆すぎないかな?」と戸惑う桜に、舞香はニヤリと笑って「蓮くんを誘惑しちゃえば?」と茶化した。


「ゆ、誘惑って何言ってるの!?」と桜は慌てながらも、内心少しだけ蓮を意識している自分に気づき、その衣装に決めた。


夜、「赤提灯ひとや」はハロウィン一色に装飾され、怪しげな雰囲気が漂っていた。


「お待たせ~!どう?似合ってるでしょ?」と舞香がサキュバスの衣装で登場し、深雪も妖精姿で微笑んだ。深雪のふわりとした花飾りに、桜は「なんだか…私の召喚獣リフネリアティみたい…」と心の中で思わず重ねてしまう。


隼人が海賊の幽霊に(ふん)して現れると、衣装の不気味さと迫力に桜は背筋がゾクッとしたが、その真剣な表情に思わず笑ってしまった。「今日は魂を狩りに来たんだ、気をつけなよ?」という隼人の冗談に、店内からは笑いが漏れる。


その時、蓮がヴァンパイアの姿で現れ、普段と違う姿に桜の心が高鳴った。彼が桜の姿に気づき、少し驚いたように目を見張るのを見て、桜は内心ドキドキしていた。


「桜ちゃん、狩人の衣装が似合ってるね」と蓮が声をかけると、桜は照れながらも嬉しそうに微笑んだ。その様子を見た舞香が桜に耳打ちし、「ねぇ、チャンスなんじゃない?今日は攻めてみたら?」と言って微笑む。桜は少し赤面しながらも、「蓮くん、今日はすごくかっこいいね」と話しかけてみる。


蓮は驚いた表情を見せつつも、優しい笑みを浮かべて「ありがとう、桜ちゃん。君もとても可愛いよ」と返す。その瞬間、二人の間に温かな空気が流れ、桜の心が満たされた。


一方で、隼人と敦司の仮装バトルも加熱していた。隼人の幽霊としての「浮遊感(ふゆうかん)」を演出した滑らかな動きと、敦司の狼男としての「獰猛(どうもう)さ」を強調した動きが、まるで決闘のように繰り広げられる。観客たちがその演技に魅了され、歓声と拍手が絶えなかった。


舞香は敦司に声援を送り、桜も隼人に「頑張って!」と応援する。その中で、深雪も笑顔で隼人を見つめ、「隼人、負けないで!」と声を上げた。その声に振り向いた隼人は、嬉しそうに微笑んだ。


最終的に、決着は敦司の「聖水」と書かれたボトルの水で幕を閉じた。隼人に向かって「これで終わりだ!」と水をかけ、「俺にはこの水が効かない!」と叫ぶ敦司に、場内は大爆笑に包まれた。勝敗は曖昧のまま、二人は肩を組んで笑い合い、賑やかなハロウィンの夜が一層盛り上がっていった。


桜はそんな二人や、敦司と並ぶ舞香の様子を見つめながら、心から「ハロウィンって楽しいな」と感じ、舞香が彼氏と過ごす姿に微笑んだ。かつての自慢好きな舞香ではなく、今夜の彼女は心から誰かと過ごす喜びを感じているように見えた。


敦司の優しさが舞香に影響を与えたことを感じながら、桜は二人の姿に自然と微笑みを浮かべ、「誰かと過ごすことで、人は変われるのかもしれない」としみじみと思った。


妖精の衣装を身にまとった深雪は、店の常連客たちの注目を集めていた。彼女の衣装はまるで星の光を纏ったかのように輝いていて、その姿に桜は思わず見とれてしまった。深雪の笑顔はまぶしく、周りの空気を一層華やかに演出している。


桜は深雪を見つめながら、ふと蓮も彼女を見つめているだろうかと少し気になり、ちらりと蓮の方をうかがった。しかし、蓮は深雪の方には特に目を向けず、逆に桜の様子をじっと見ていることに気づいた。


「…あれ?」桜は心の中で首をかしげる。蓮なら当然、深雪を目で追っていると思っていたからだ。桜はその違和感に気づき、もう一度、蓮の視線を確認する。


蓮は桜が驚いた表情をしているのを見て、小さく微笑んで「どうしたの?」と尋ねてくる。


「え、いや…なんでもないけど…」桜は慌てて視線をそらしながらも、蓮が自分を見つめていた理由が気になって仕方がなかった。その瞬間、不意に酔っ払った客が桜に絡んできた。彼はほろ酔いの状態で、ふらふらとした足取りで近づき、「お、君、すごく可愛いじゃないか!」と大声で叫びながら、無遠慮に桜の背中を撫で回した。


驚きと恐怖が同時に襲い、桜は「あっ…!」と声をあげる。心臓はドキドキし、周りの音が遠のいていく。彼女の背中に触れた手の温もりは不快で、周囲の視線が一斉に集まる中、恥ずかしさと不安でいっぱいになった。思わず身を固くしてしまい、逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。


蓮はその様子をすぐに見つけ、目を鋭くしながら桜の方を見やった。彼の表情には明らかに怒りが浮かんでいたが、居酒屋の店主としての立場を考え、怒りを必死に抑えているようだった。


「桜ちゃん、大丈夫?」と蓮が声をかける。彼の優しい声が桜の耳に届き、少しだけ心が落ち着く。蓮はその目で、客に強い視線を送りながら続けた。「お客さん、申し訳ありませんが、他のお客様に迷惑をかけるのはご遠慮いただけますか?」


その男性は蓮の強い視線にたじろぎ、「あ、悪かった…」と少し気まずそうに笑いながら、そっと離れていった。


蓮は桜のそばに歩み寄り、少し苛立った様子で小声で言う。「桜ちゃん、あんな連中に絡まれたら、すぐに僕に教えてね。…放っておけないから。」


その一言に、桜の胸はドキッとした。蓮の怒りを抑えた優しさに、彼が自分を大切に思ってくれているのだと感じ、思わず小さく笑みをこぼした。そんな彼の優しさに、桜の心はほんの少し温かくなり、安心感が広がる。


居酒屋の一角には特設のお化け屋敷が設けられており、仮装したスタッフたちがさまざまなサプライズ演出を仕掛けていた。蓮も軽く仮装の小物を身につけており、いつもと違う雰囲気に店内はさらに盛り上がっている。


桜は楽しくその場に溶け込んでいたが、不意に仮装スタッフの一人が「桜ちゃん、こっちの準備も手伝って!」と、まるでスタッフの一員であるかのように勘違いして声をかけてきた。


「あ、えっと…」と戸惑いながらも断りそびれ、そのままお化け屋敷の演出の準備に巻き込まれてしまう。蓮がその様子に気づいて「桜ちゃん、そっちじゃないよ」と助けに来てくれた時、桜はほっと胸をなでおろし、二人で笑い合った。


その瞬間、いくつかの装飾品が倒れ、周りに散らばったカボチャや蜘蛛の巣に足を取られそうになる。思わずつまづいてしまった桜を、反射的に蓮が支えてくれた。


「大丈夫?」と耳元で優しく(ささや)かれる。その瞬間、桜の心臓は一気に早鐘(はやがね)を打つ。薄暗い空間に、揺れるろうそくの光が彼らを包み込み、ハロウィンの幻想的な雰囲気がさらに高まった。桜は蓮の声に心を奪われ、彼の存在が自分にとってどれほど大切かを改めて実感した。


桜は蓮の顔が近く、ほんの少し唇が触れそうな距離に気づいてドキリとするが、蓮はふいに息を飲みながら顔を離した。「あ…ごめん。つい…」と、少し赤くなりながらも謝る蓮。桜はしばらく動けないまま、その場に立ち尽くしていたが、心は温かい余韻(よいん)に包まれていた。


蓮はその場を去りかけたものの、ふと立ち止まり、少し照れくさそうに桜を見ながらポツリと呟いた。「…他の人に、桜ちゃんが触られるの、嫌だな。」


その言葉に、桜は一瞬驚き、蓮の横顔を見つめた。彼は気まずそうに視線をそらし、少し照れたように頬を赤らめている。その姿が珍しくも愛おしく思え、桜は胸が高鳴るのを感じた。


「えっ…蓮くん…?」と、小声で名前を呼びかけるが、蓮は答えずに戻ってしまった。


蓮の背中を見つめながら、桜は不思議と顔が熱くなり、自分でも気づかないうちに微笑んでいた。


二人の距離が今までよりも少し縮まったように感じたハロウィンの夜が、桜にとって忘れられないものになった。


しかし、舞香が意味ありげな視線で桜をじっと見つめることがあり、その視線に桜は違和感を覚えた。「舞香、何かあったの?」と尋ねても、舞香は何事もなかったかのように笑って「何でもないわ」とはぐらかすだけだった。桜はその笑顔がどこか不自然に感じ、心の中に不安が芽生える。


夜も更け、仮装のまま楽しんでいた仲間たちが少しずつ帰り始めた頃、舞香は桜にだけこっそり耳打ちをした。「…また後で、話があるの」と告げ、意味深な表情を浮かべる。そのまま舞香は桜を残して彼氏の敦司と帰って行った。


桜は舞香のその態度が気になりつつも、ハロウィンの余韻を感じ、一人居酒屋に残った。蓮がさりげなく「また来年も一緒に楽しもう」と言ってくれると、桜は心のざわつきを押し殺しながら「うん…楽しみ!」と微笑んで答え、舞香の言葉の意味を考え続けていた。

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