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収穫祭の灯と心のざわめき

収穫祭の夜、秋の匂いが漂う広場には賑やかな音楽と人々の笑い声が響き渡り、新鮮な野菜や果物、名物料理がずらりと並んでいた。蓮は「赤提灯」の屋台で、特別メニューの串焼きの準備をしていた。今回は秋の味覚を詰め込んだ厚切りの豚肉と椎茸を串に刺し、食用コスモスと柚子胡椒のソースを添えた華やかな一品だ。コスモスは以前、桜と見に行った花で、その美しさを思い出しながら、蓮は心を込めて料理を準備していた。


串焼きを焼きながら、蓮はふと数年前のことを思い出していた。まだ17歳で、部活帰りには決まって「赤提灯ひとや」に立ち寄って夕飯を食べていた彼。あの頃は一人でカウンターに座ることが多かったが、時折、父の作る料理を楽しみに訪れる常連客がいた。深雪という会社帰りの女性で、蓮よりも10歳年上。彼女は気さくで穏やかに話しかけてくれ、蓮にとって彼女の笑顔は心安らぐものだった。


その頃、蓮は友人であり、6歳年上の隼人とも親しくしていた。隼人は家業の畑を手伝う農家で、兄のように蓮を見守ってくれる存在だった。ある日、蓮は隼人と深雪を引き合わせる機会が訪れ、二人はすぐに打ち解け、話に夢中になった。それ以来、二人は自然と惹かれ合い、やがて付き合うようになった。


しかし、そんな二人の平穏な日々は突然の悲劇に見舞われた。隼人の両親が事故で亡くなり、彼は家業を背負うことになり、深い悲しみに沈んでしまった。その時、深雪は隼人のそばに寄り添い、荒れた畑を一緒に立て直そうと奮闘した。彼女の励ましと支えが隼人を再び立ち上がらせ、二人の絆は一層深まった。


蓮は二人の関係を温かく見守る一方で、自分の抱いていた淡い想いをそっと胸にしまい込んだのだった。思い出の断片が浮かび上がりながらも、蓮は目の前の串焼きに集中し、豚肉と椎茸を丁寧に焼き上げていた。


その頃、桜も収穫祭に訪れており、隼人と深雪の店が忙しそうなのを見て手伝っていた。彼女は笑顔で接客し、慣れた様子で隼人たちをサポートしている。その様子を遠くから見つめていた蓮は、胸の中に言葉にできない感情が芽生えているのを感じた。


「なんで…こっちに来てくれないんだろう…」


心の奥にわき上がるもどかしい気持ちに、蓮は自分でも驚きつつも、気にしないよう串焼きを一心に焼き続けた。だが、桜が隼人と楽しそうに笑い合う姿が視界に入るたび、どうしても心がざわつく。


その時、ふと桜がこちらに駆け寄ってきた。息を切らしながらも満面の笑みを浮かべた桜を見て、蓮は思わず手を止めてしまった。


「蓮くん!今ね、深雪さんたちの屋台を手伝ってたの!すごく楽しかったよ!」


桜の目が輝き、彼女の楽しさが伝わってくる。蓮はさっきまでのもやもやが嘘のように晴れ、つい微笑んだ。


「そうなんだ。楽しんでるみたいで良かったよ」


蓮は秋の特別メニューの串焼きを手渡しながら「これ、桜ちゃんが好きかなと思って、食用コスモスを添えてみたんだ。よかったら食べてみて」と勧めた。


桜は串焼きを一口食べ、「うん、美味しい!このコスモス、蓮くんと一緒に見に行ったときのこと思い出すね」と笑顔で言った。その無邪気な笑顔に、蓮の心が温かくなった。


「蓮くんの屋台も手伝おうか?」


桜が提案すると、蓮は少し照れながらも「今日は桜ちゃんも楽しむために来てるんだから、無理しないでいいよ」と言ったが、桜は小さく首を傾げて屋台を見つめていた。


「でも、蓮くんの屋台で働いてみたいなぁ…」


桜の純粋な気持ちが嬉しくて、蓮は思わず笑った。「じゃあ、少しだけ手伝ってもらおうかな」と言い、二人で屋台を始めた。


桜と肩を並べながら働き、蓮はこの穏やかな時間がずっと続けばいいと願った。

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