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コスモスの野原で見つけた気持ち

ある日、蓮は居酒屋「赤提灯ひとや」の仕込みを終えた後、常連の桜が店に訪れるのを見かけた。桜はどこか疲れた様子だったが、蓮に気づくと笑顔を見せる。その表情がどことなく無理をしているように見えて、蓮は少し心配になった。


「桜ちゃん、ちょうど良かった。少し聞いてもいい?」蓮はそう言いながら近づき、ふと迷ったように言葉を選んだ。


「今度、収穫祭があるだけど、僕の店でもその時期に合わせた特別メニューを考えようと思ってるんだ。コスモスを使った料理を出したいと思ってるだけど、どうかな?」蓮は目を輝かせ、桜に提案した。


「コスモス?あの花の?」桜は少し驚いた顔をして、蓮を見つめ返した。


「うん、食用のコスモスなんだ。ちゃんと食べられる種類があるんだよ。独特の風味があって、ほんのり甘いんだ」と蓮は説明した。


桜はその話に興味をそそられ、「え、そんなのがあるんだ…知らなかった」とぽつりと呟いた。


「よかったら、一緒に行ってみない?コスモスの農園に」蓮はそう言って、少し照れくさそうに桜を誘った。


桜は思わず蓮の提案に驚いたが、次の瞬間には興味と楽しさが心に芽生えていた。「本当に?私も一緒に行っていいの?」


「もちろん。桜ちゃんにも見せたいと思って。広大なコスモス畑があるんだ」と蓮が少し笑みを浮かべながら答える。


桜はその誘いを受け入れ、二人は農園へ出かける計画を立てた。蓮と一緒に自然に触れられる機会に、少し心が弾んでいた。桜がコスモス農園を歩いていると、蓮はふと彼女の横顔を見つめていた。小さく笑みを浮かべて、コスモスに夢中になっている桜の姿に、心がじんわりと温かくなるのを感じていたのだ。ピンクや白、紫の花が秋風に揺れる中、彼女の髪がそっと風に舞う様子は、まるでコスモスそのもののように儚げで美しかった。


「桜ちゃん、コスモスの花って好き?」と蓮が何気なく尋ねると、桜はぱっと彼の方を見上げ、笑顔で頷いた。「うん、好きだよ。こんなにたくさんのコスモスを間近で見るのは初めてで…なんだかすごく感動しちゃった」


その無邪気な反応に、蓮の胸は小さく震えた。桜の目は輝き、口元には柔らかな笑みが浮かんでいる。その純粋で透き通った様子に、蓮は胸の奥で温かな感情が広がるのを感じていた。


「…桜ちゃんって、本当に自然が好きなんだね。なんか、見てるだけでこっちまで癒される気がするよ」蓮は照れ隠しのように笑いながらつぶやいた。


「そ、そんなことないよ!」桜は急に照れたように顔を赤らめ、蓮から視線を逸らした。少し頬を染める彼女の姿に、蓮は思わず笑顔になる。


その後、カフェでアイスクリームを楽しみコスモスの花びらがトッピングされたアイスを、桜は無邪気に口に運び、「おいしい!」と笑顔で言う。その笑顔が眩しくて、思わず彼女から目を離せなかった。


「あ、蓮くんも食べてみて!」桜が自分のアイスクリームを差し出してきた。その仕草に驚きつつも、蓮は少し戸惑いながらも口をつけた。ほんのりと甘い味が広がり、桜と同じ時間を共有できている喜びが胸に広がっていった。


「…おいしいね」蓮がそう言うと、桜は嬉しそうに微笑んで「でしょ?」と返した。その屈託のない笑顔に、蓮は自然と笑顔になった。


その後、二人は森を抜けた先の展望台で、広がる色づいた葉を見下ろしていた。蓮は「ここ、僕の秘密の場所なんだ」と小さな声で言った。桜がその言葉に驚いたように目を見開くと、蓮は少し恥ずかしそうに目を逸らした。


「こんな素敵な場所、誰にも教えてなかったの?」桜が尋ねると、蓮は微かに頷いた。「あんまり人が来ない方が好きで…でも、桜ちゃんなら、きっとこの景色を一緒に楽しんでくれるんじゃないかって思ったんだ」


その言葉に、桜の胸が少し高鳴った。彼女が息をのむほど美しい景色を共有したいと、蓮が自分をここに連れてきてくれたことに、特別な想いを感じたのだ。


秋の柔らかな夕日に包まれて、蓮がそっと桜に向かって微笑む。「桜ちゃん、こうやってゆっくり過ごすのって、好き?」


「うん…蓮くんと一緒にいると、なんだか心が落ち着く気がするよ」桜は静かにそう答えた。ふと、二人の視線が重なり、言葉もなくそのまま見つめ合ってしまう。


蓮は思わず心が高鳴るのを感じた。この一瞬、まるで二人だけの世界にいるような錯覚に陥る。蓮は無意識に桜の瞳に引き込まれる自分を感じていた。桜もまた、彼の視線を前に、胸がきゅっと締め付けられるような感覚を覚えていた。


「…なんだか、不思議な気分だね」蓮が少し照れながらつぶやくと、桜も小さく微笑んだ。「うん、本当に」


二人はやがて森を抜けた先の展望台に立ち、紅葉が色づきかけた木々を見下ろしていた。緑の中に赤や黄色が混じり始め、風に揺れる葉が美しい。蓮はふと桜の隣に立ちながら、彼女の肩にそっと触れようとしたが、何かを意識したように手を止めた。桜はその動きに気づかず、目の前の景色に夢中になっていた。


この美しい風景と、静かに自分を見守る蓮の存在が心地よく、しばらくの間無言でその場を堪能していた。蓮はふと桜を見つめながら、不思議なほど心が落ち着くのを感じる。「どうしてこんなに一緒にいると穏やかになるんだろう?」と考えつつも、その感情を「友人としての安心感」として捉えていた。

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