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秋雨の森で心を重ねて

秋が訪れると、居酒屋「赤提灯ひとや」の常連客たちが集まり、キノコ狩りに行くことが決まった。桜もその誘いを受け、特に蓮と一緒に過ごせることを楽しみにしていた。


当日、森へ向かう一行の中で蓮を見つけた桜は、自然と笑顔がこぼれた。「蓮くん、一緒に探そう!」


蓮と桜は仲間たちと楽しそうにキノコを探し始め、笑い声が森に響き、秋の柔らかな陽射(ひざ)しが木々の間から差し込んでいた。桜は心が弾むのを感じながら、蓮と過ごす時間を存分に楽しんでいた。


途中、桜が滑りそうになったとき、蓮がすかさず手を差し伸べて支えた。「大丈夫?気をつけてね。」その優しさに、桜の心臓は高鳴り、「ありがとう、蓮くん」と少し照れながら笑顔を見せた。


蓮が桜の髪に付いた枯れ葉を取ってくれたとき、彼の手の温かさを感じ、桜の胸にはほんのりとした幸せが芽生えた。


「これ、どうかな?」桜が見つけたキノコを蓮に見せると、彼は少し驚いた顔をして「それ、毒キノコかも…危ないから触らない方がいいよ」とアドバイスしてくれた。桜は驚きつつも、「そうなんだ…蓮くんがいてくれて良かった」と、ますます彼の存在が頼もしく思えてきた。


しばらくすると、仲間の一人が「見て、こんなキノコ見つけたよ!」と色鮮やかなキノコを掲げて見せ、興奮している。桜はすぐに蓮の言葉を思い出し、「それ、危ないかも…」と言いかけたが、仲間は聞こえない様子で持ち続けている。


仲間が毒キノコを持ち続けているのを見て、桜の心の中で妄想がふくらみ始めた。「召喚せよ、タイジオレム!」と心の中で叫ぶと、突如として目の前に「ごっつい土の巨人」が現れた。タイジオレムが巨体で森にどっしりと構え、その泥の腕で毒キノコを包み込み、仲間を守ってくれている。


巨人の腕は岩のように筋肉質で、背中には小さな畑が育っている。タイジオレムは「ムオオオオ…」と低く唸り、地面を踏みしめると、森に穏やかな空気が広がった。妄想の中で、桜はタイジオレムの頼もしさを感じていた。


現実に戻ると、蓮が実際にその毒キノコを踏み潰した途端、「プシュー!」と鮮やかなピンクの煙が一気に広がり、桜はその煙をまともに浴びてしまった。


「わっ!…うわぁ、何この色!」桜は慌てて顔を覆いながらも、モヤモヤと現実に引き戻されていく感覚に包まれる。


ピンクの煙がゆっくりと晴れると、目の前には毒キノコを踏みつけた蓮が、少し照れくさそうにこちらを見ていた。「…大丈夫だった?」と心配そうに声をかける蓮に、桜は顔を赤らめて「うん、ありがとう、蓮くん」と笑顔で答えた。


蓮の笑顔を見て、桜の胸の中にほんのりとした温かさが広がり、思わず心が和んだ。


その後も、みんなでキノコを探しながら森を進んでいった。秋の香りを感じながら、桜は胸がふわふわと温かくなるのを感じていた。蓮と一緒に過ごす時間が、こんなにも幸せなものだなんて。ふとした時に優しく声をかけてくれたり、さりげなく気遣ってくれる彼の存在が、桜の心を穏やかにしてくれる。


桜は心の中で、いつか自分の本当の気持ちを蓮に伝えられたら…そんな思いがふっと浮かんだ。しかし、今はただ、このささやかな時間を楽しみたいと感じていた。


キノコ狩りが進むにつれ、夕方になると空から突然雨が降り出した。


「うわっ、急に降ってきた!」桜が頭を押さえたその時、蓮が自分の上着を脱いでそっと彼女にかけてくれた。「少しは寒さが和らぐから…」驚いた桜は、その温かさと彼の優しさに胸が締め付けられるようだった。


秋の森の中、降りしきる雨音に包まれながら、桜は蓮の表情にかすかな(かげ)りを感じた。蓮はぽつりと話し始めた。「実は、隼人のことを考えてたんだ…彼は年上だけど、いつも気さくで、兄みたいな存在でさ。」


桜は静かに耳を傾けた。蓮は少し苦しそうに息をつき、言葉を選ぶように続けた。「隼人が両親を事故で亡くしたとき、荒れ果てた畑を立て直す決心をできたのは、深雪さんの支えがあったからなんだ。彼女は隼人の力になろうとずっとそばにいて、励まし続けてきた…そんな二人の絆を壊すことなんて、僕にはできないと思ってる」


蓮の話を聞きながら、桜は彼の優しさと深い思いやりに心が動かされた。しばらくの沈黙の後、桜は彼の手をそっと握り、「蓮くん、あなたの想いは大切だけど、自分の幸せも見つめてほしい」と優しく伝えた。


蓮は微笑みを浮かべ、桜の手を握り返した。彼の心には、深雪と隼人への想い、そして桜への感謝が交錯していた。その後も、雨の中で二人は静かにキノコ狩りを楽しみながら、それぞれの心情を抱えて歩き続けた。


キノコ狩りを終え、みんなで分けた収穫を袋に入れて森を後にすることに。帰り道では、桜が「赤提灯ひとや」でまた皆と集まれることを心待ちにしていた。


居酒屋での帰り際、桜は蓮に「今日は一緒にキノコ探しできて楽しかったよ。ありがとう」とお礼を伝えた。蓮は少し照れたように微笑みながら、「こちらこそ。また一緒に行こう」と応えてくれた。


その日の夜、桜は自分の部屋でキノコ狩りのことを思い返し、蓮と過ごした時間のひとつひとつが宝物のように感じられた。キノコ狩りを通じて、ますます蓮への気持ちが深まっていることに気づき、心の中で小さな幸せをかみしめる桜だった。

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