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冷たい終わり、光の始まり

数日後の晩、桜は尚樹の部屋を訪れた。心臓が高鳴り、手が震える。彼に何を言おうか、頭の中を整理しながら、何度もこの瞬間を想像していたが、実際に口にするのはとても難しかった。意を決して口を開く。


桜: 「尚樹、私たち、もう終わりにしましょう。」


尚樹は驚いた表情を浮かべ、彼女にすがりつくように近づいた。


尚樹: 「なんでそんなことを言うの?俺は桜のことを大切にしていたろ…」


その言葉は、まるで彼女を引き留めるための道具のように響いた。桜は彼の目を見つめることができず、心の中で痛みを感じながらうつむいた。彼女の胸のざわめきが増していく。


桜: 「大切にしていた?そんな言葉、何の意味もない。あなたは私をぞんざいに扱ってきたじゃない。」


尚樹は一瞬言葉を失い、困惑した表情を浮かべた。彼の目に映る焦りは、桜の心にさらなる不安を広げる。すると、尚樹は声を震わせながら言った。


尚樹: 「俺はお前を失いたくない!お願いだ、離れないでくれ!」


その叫びは彼の愛情の表現ではなく、支配したいという欲望の裏返しに思えた。彼の涙は感情の演技に見え、桜は心の奥で冷たさを感じた。


「さくらぁぁっ…うっ…うっ…頼むから別れるなんて言わないでくれ!」


桜:「さようなら…」


尚樹:「さくらぁ!いやだっっー!!」


桜は思わず後退し、彼から逃れるように部屋を出た。心は揺れ動いていたが、もう後戻りできないことを知っていた。


尚樹は、桜が別れを告げた瞬間、驚きと困惑の表情を浮かべた。何かを言おうと口を開くが、言葉が見つからない。


尚樹:「桜…待ってくれ…なんで、突然…?」


しかし、桜は振り返ることもなく、足早にその場を離れていった。その後ろ姿を見つめながら、尚樹は焦りと後悔が胸に広がっていく。何かを失ったという現実が、徐々に彼を(おお)い始めていた。


桜は尚樹との別れの後、心がざわざわしていた。彼が自分に執着していることに困惑しながらも、内側で沸騰(ふっとう)する何かに変わっていく。部屋の中で静かに座っていたが、胸の奥では抑えきれない感情が渦巻いていた。裏切られた痛み、嘘をつかれた絶望、そして自分が見過ごしてきた事実への悔しさ。それらが重なり合い、やがて彼女の中で爆発する。


「どうして…どうしてこんなに無力なの…」桜は自分の無力感に対してもどかしさを感じながら、静かに目を閉じた。


その時、彼女の心の奥深くから、何かが目を覚ました。寒さと孤独に包まれた心の底から、悲しみと怒りが混じり合い、桜の心に一つの決断が下った。無意識のうちに右手を上げると、光の召喚獣ルミシャライが彼女の前に現れた。静かで冷たい光が桜を包み込み、その光はまるで彼女の感情そのもののように輝いていた。桜はそっと呟いた。


「彼らを締め付けて…私が受けた痛みを、彼らに返して…」


ルミシャライの光が強まり、その白くまばゆい光はまるでブレスレットのように輝きながら、尚樹と千紗を包み込み、締め付けるように巻きついていった。二人は、その光に囚われ、もがくこともできず、ただ冷たい光に押しつぶされるように感じていた。


尚樹はその中で声を上げ、千紗は動揺した表情で光を見つめた。しかし、桜の心にはもはや動揺はなかった。冷たい静寂(せいじゃく)の中、彼女は彼らが受けるべき罰をただ見守るだけだった。


「これは…私の贈り物よ。」桜は心の中で呟き、尚樹と千紗が光に閉じ込められていく様子を静かに見つめた。


やがて光が消え、桜の中にあった怒りや悲しみも静かに霧散(むさん)していった。その後に残ったのは、空っぽの静寂――そして新しい始まりを迎えるための心の準備だった。


ルミシャライは優しく桜の前に降り立ち、その美しい光で彼女を包み込んだ。心の中にある複雑な感情を整理するように、桜は静かに深呼吸をした。今度は、彼女の心に少しのためらいもなかった。尚樹が桜の信頼を裏切り、千紗に愛情を注いでいたことがはっきりした瞬間、彼女は自分が本当に望んでいるのは懲らしめることではなく、解放されることだと悟った。


「もういい…ルミシャライ、ありがとう。」


光が静かに消え、桜は一人で暗い部屋に残された。尚樹の裏切りを受け入れた桜は、これ以上自分を傷つけることを許さないという強い決意を抱いていた。過去を手放し、自分を大切にしながら、前を向いて歩いていくことを決めた。


尚樹は別れ話をした後も桜に連絡を続けていた。特に、彼が千紗について相談を持ちかけてくることに桜は戸惑った。


桜(心の声): 「この前、別れるって話をしたはずなのに…どうして?しかも、千紗のことを私に相談するなんて…」


尚樹: 「ちょっと相談があるんだけど…実は、友達が最近、なんか冷たいんだよね。」


桜の胸の中に冷たい感情が広がっていく。


尚樹: 「千紗って子なんだけど、いつもは俺に親切にしてくれてたのに、最近は距離を置かれてる感じがするんだ。どうしたらいいと思う?」


桜(心の声): 「何を考えてるの?私たち、別れるって話したばかりなのに、どうして千紗のことで私に相談してくるの?」


桜はしばらく沈黙した後、できるだけ冷静な声で答えた。


桜: 「それって、どうして私に相談するの?私たちはこの前別れるって話をしたよね。」


尚樹は少し戸惑ったようだったが、まるで何事もなかったかのように軽い口調で返答した。


尚樹: 「いや、でもお前の方がそういうの詳しいしさ。お前ならどうする?」


この無神経な言葉に、桜は怒りを抑えきれなくなった。尚樹がどれだけ自分を傷つけているのか、まるで理解していないように思えた。


桜(心の声): 「もう限界だ。尚樹は自分のことしか考えてない。こんな人に振り回されるのはもうやめよう。」


尚樹は千紗のことで悩んでいることを引き続き桜に話し続けた。彼は、桜に相談することで安心感を得ようとしているのかもしれなかった。別れを告げた後も、彼にとって桜は「都合のいい存在」として機能しているように見えた。


尚樹: 「だから、どうやって千紗とまた仲良くなれるかな?お前、何かアドバイスしてくれよ。」


桜は尚樹からの言葉を静かに聞きながら、心の中で様々な感情が交錯(こうさく)していた。尚樹の振る舞いに対する怒りや失望、そして自分が長い間見て見ぬふりをしてきた事実が、急に現実となって突きつけられたような感覚だった。しかし、桜は感情を抑え、冷静に返事をすることにした。


桜: 「尚樹、私たちはもう終わってるわ。あなたが千紗とどうなろうと、それはもう私の関係することじゃない。」


彼女はそう言いながらも、尚樹がまるで自分が被害者であるかのように振る舞うことに苛立ちを感じていた。彼の中で、彼女との別れは単なる次のステップへの通過点に過ぎないように思えてならなかった。


桜(心の声): 「自分の都合で振り回すのはやめて…私はもう、あなたのその優柔不断さに付き合う気はない。」


桜は尚樹との会話を終わらせ、自分の未来に進むための決意を固めた。彼女はもう、過去の自分に縛られることなく、前に進む準備が整っていた。

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