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崩れ行く信頼と疑念の果てに

連休明け、職場で舞香が旅行のお土産を配る姿を見つめる桜。その明るい笑顔と、嬉しそうにお土産を受け取る同僚たちの姿を見ながら、心の中で「私は何もないのに…」と呟く。舞香の心からの幸せを実感しつつ、尚樹との間に流れる冷たい空気に身を包まれていた。彼に何かを期待することすらできなくなり、孤独感がじわじわと胸を締め付ける。


尚樹が家に来た時、彼は旅行の思い出を楽しそうに語り始める。桜の心は一瞬、期待で躍るが、その内容は自慢話ばかりで、彼女の心に響くものは何もなかった。「お土産をくれるのかと思ったけど、ただの自慢話か…」彼の楽しそうな笑顔を見つめながら、桜は心の奥に広がる失望感に耐えきれなかった。「私なんてただの存在で、彼には本当に必要とされていないのかもしれない…」と自己嫌悪が押し寄せ、胸が苦しくなる。


数日後、桜は財布の中身が減っていることに気づく。尚樹が遊びに来た後、必ず一万円が消えていたのだ。「またか…」と心の中で呟きながらも、彼を疑う勇気はなかった。しかし、尚樹の自慢話を聞くたびに、彼との関係が不安でいっぱいになり、心の奥で何かが崩れていくのを感じていた。「まさか…」という疑念が心の奥で芽生え始めるも、問い詰めることができずにいた。しかし、財布の中身が徐々に減っていく現実を目の当たりにする中で、桜の不信感は次第に膨らんでいった。


数日後、桜は大切にしている高価なワイヤレスイヤホンを使っていた。音質が良く、通勤中の音楽やポッドキャストが彼女の小さな楽しみだった。だが、ある日、イヤホンが見当たらないことに気づく。自宅や尚樹の家をくまなく探しても、どうしても見つからない。「そんなに高いものじゃないから大丈夫だよ」と尚樹は軽く流す。その言葉に安心を求めるも、心のどこかで違和感がじわじわと広がっていた。新しい同じモデルのイヤホンを買い直すときも、「大切な時間を楽しむために仕方ない」と自分を慰めたが、その背後に不安がつきまとっていた。


しかし、そのイヤホンも短期間のうちに再び消えてしまう。「また無くしちゃったのか…」と自分の不注意を反省する一方で、桜の中に冷たい恐怖が芽生え始めていた。尚樹は「そそっかしいなぁ」と笑って軽く流すが、その笑顔の裏に何か隠された真実があるように思えてならなかった。


そして、その疑念が爆発したのは、尚樹の部屋でのことだった。彼のパソコンの画面に「ワイヤレスイヤホン出品完了」というメッセージが表示された。それは、桜が無くしたイヤホンとまったく同じモデルだった。


桜は震える声で尋ねた。「これ…私のイヤホンじゃないの?」


尚樹は一瞬固まった。彼の顔に走った動揺は一瞬だったが、桜の目にはしっかりと映っていた。焦ったように笑いながら、しどろもどろに答える。「いや、たまたまだよ。俺も同じやつ持ってたから、それを売っただけだよ。」


桜はその言葉を聞いて、胸の奥がズキリと痛んだ。彼の笑顔は普段と変わらないものの、その目はどこか虚ろだった。彼の言い訳に信じる余地はなく、怒りが込み上げてくる。


「嘘つかないで!あれ、私がなくしたイヤホンでしょ?ずっと探してたんだよ!」桜は堪えきれず、目に涙が溢れ始める。


尚樹は一瞬目を逸らし、舌打ちをするかのような小さな音を漏らした後、無理に笑顔を保とうとした。「いや、違うって!そんなことするわけないだろ?」その声はかすかに震えており、尚樹が必死に自分を守ろうとしているのが見て取れた。


桜はもうその言葉を聞き流すことができなかった。嘘だとわかっていても、尚樹の言葉が彼女の心に冷たい針のように刺さり、怒りと悲しみが胸の奥でぐつぐつと煮えたぎっていくのを感じた。


「もう、我慢できない…」


桜の中で何かが切れる感覚がした。その瞬間、彼女の中にある力が目覚め、心の中でタイジオレムの姿がはっきりと浮かび上がった。体が自然に動き、口から言葉が漏れた。「タイジオレム…尚樹をぶっ飛ばして!」


部屋の空気が一変し、重苦しい静寂が広がった。床から土のエネルギーが渦巻き、まるで地面そのものが目を覚ましたかのようだった。桜の前に現れたのは、巨大な土の巨人、タイジオレムだった。尚樹は一歩、また一歩と後ずさりし、その巨体に圧倒され、動けなくなっていた。


「何だよこれ…?」尚樹は恐怖で声を失い、震える手を伸ばすが、その先に救いはなかった。


タイジオレムは桜の命令を受け、大きな拳を振り上げ、尚樹に向かって振り落とした。


その瞬間、桜ははっと我に返った。今のは、ただの頭の中での想像に過ぎなかった。目の前には尚樹がいるが、巨人はいない。しかし、その一瞬の想像が、彼女にとって現実と同じくらい鮮明に感じられた。そして、桜の心はもう揺るがなかった。尚樹の嘘と裏切りは確かであり、信頼は完全に崩れ去った。


桜は静かに立ち上がり、涙を拭いながら尚樹に背を向けた。彼の部屋を後にしようとするその瞬間、後ろから尚樹の声が聞こえたが、振り返ることなく、ドアを閉めた。

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