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領主になる

街の中は閑散としていた。


人通りも少なく、建物も風化している。


街の城壁もそうだったが、所々が傷んでいた。


それは俺の知る風景とは違っていた。


「……昔は綺麗で、人も多かったのに」


「おや? アイク様はきたことがおありですか?」


「ええ、もう二十年近く前ですが」


まだ父上が生きていて、知り合いに会いに行くといい、俺と妹を連れて行ったっけ。

あの時は活気もあって、自然豊かな生活に憧れたものだ。


「そうだったのですね。それでしたら、まだ廃れる直前くらいですな。あの後、すぐに戦争が起き……王族の方々は避暑地にこれるような状態ではなくなりました。そして、徐々に廃れていってしまったのです」


「そうでしょうね。そんなことをすれば、民や貴族から反感を買いますし」


「おっしゃる通りです。これも、私の不徳の致すところ……国王陛下から任されたのに、この地を保つことができませんでした。私では、どうにか民が飢えないようにするのが精一杯でした」


「いえ……貴方は立派な方かと思います。こうして、住民の方々に好かれているのだから」


確かに街に活気はない。

だが、道を歩く人々が彼に向ける視線を見ればわかる。

誰もがぺこりと挨拶をし、悪感情を向けていない。

それもあり、俺やギンに対しても怪訝な視線を向けるだけで済んでいた。


「っ……ありがとうございます。来てくれたのが、貴方のような方で良かった」


「俺に何が出来るかわかりませんが、出来る限りのことはしましょう」


元々戦いにしか能のないとはいえ、俺は馬鹿だった。


戦争が終われば平和になると思っていた。


しかし、ここにくるまでに見てきた。


本当に大変なのは、これからなのだと。


やれやれ……のんびりする前に、俺がなすべき仕事があるな。






大通りを真っ直ぐに進んでいくと、正面に館が見えてくる。

そこの周りだけは草木もなく、建物も綺麗な状態を維持していた。

そのまま、門の中へと入り、建物の中に案内される。

ちなみに敷地内に庭があったので、ギンはそこで待機するように言っておいた。


「こちらが領主の館となります」


「……中も綺麗ですね」


「流石に、この館だけは廃れさせるわけにはいかなかったのです。たとえ、王族の方々がこないとわかっていても」


「モルトさん……」


「すみません……では、まずはこちらの部屋に」


正面玄関の奥にある螺旋階段を上がり、二階に行く。

上った先には通路があり、そこを進んで行くと大きな扉があった。

すでに扉は開いていたので、そのまま中に入り、ソファーに座る。


「さて、まずは……改めまして、ようこそおいでなさってくださいました。私、代官を務めておりますモルトと申します」


「改めまして、アイク-アトラスと申します。国王陛下の命により、この地を治める領主としてやってまいりました」


「はい、確かに……これで、私の代官の仕事も終わりですな」


すでに二十年以上働いているので、できれば休ませてあげたいが……この人の目からは寂しさを感じる。

それだったら、俺の方からお願いをすべきだな。


「もしよろしければ、引き続き補佐などをお願いしても?」


「え、ええ! 私でよろしければ! きっと、わからないことも多いでしょう」


「はい、お願いします。まずは、何から始めればいいですか?」


「そうですな……逆にアイク様のお得意なものはなんでしょうか?」


「そうですね……お恥ずかしいことに、戦うことくらいしか知らない男でして」


そもそも、俺が戦争に出た理由もそれだ。

要領も良くないし賢くもない俺は、肉体労働の道か傭兵や兵士になるしかなかった。

だから親父が戦死して長兄である兄貴が戦争に参加するという時、俺は兄貴を押しのけて戦争に参加したんだ。

兄貴は頭はいいが弱いし、既に婚約者もいたから死なせたくなかった。


「いえいえ、国を救った英雄と書いてありました。我々が敵国に蹂躙されてないのは、貴方様のおかげだと」


「国王陛下がそんなことを……」


「はい、実直な人柄だとも。それは、この短期間でもわかりますな。そうなると……妖魔や魔獣退治、兵士などの編成でしょうか。それらは、私ではどうにもならないのです」


「そういうことならお任せください」


ギンもいるし、魔物や妖魔はお手の物だ。

兵士に関しても、これでも前線指揮官である少佐を務めていた。


「心強いお言葉ですな。それより貴方様の方が身分は上なので、もう少し砕けた口調でお願いいたします」


「ど、努力してみます。その代わり、様はやめてもらえますか?」


「かしこまりました、アイク殿。さて……今日のところは、これでお休みください。夕飯などは如何なさいますか?」


「軽く食べたし、今日は平気です。ギンに食事を与えたら、休むとします」


その後ギンに報告を済ませ、俺は着替えをして自分の部屋のベッドに横になる。


「……どうやら、まだ余生を過ごすには早すぎるらしい」


だが、ある程度働かないと男はダメになると父上も言っていた。


ひとまず、この地の再建を目指して頑張るとするか。




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