決意
……強い! やはりキングの名は伊達ではない!
本来なら一対一で戦うような相手ではないが……それでも負けるわけにはいかん!
俺の背中には、セレナ様の命がかかっている!
「ウォォォォォォ!」
「ゴァァァァァァ!」
大剣と大剣が激しく打ち合い、余波によって木が倒れて地面がえぐれる。
俺と相手の体から血が流れ、それでも打ち合うことをやめない。
一合二合と斬り結び、轟音が森の中に響き渡る。
「ニンゲンノブンザイデェェェ!」
「どうした!? そんなものか!?」
「ナメルナァァァ!!」
「ぐうっ!?」
鍔迫り合いで力負けし、後ろにあった木に衝突する。
全身がきしむが、どうにか態勢を立て直すと……目の前にゴブリンキングが迫っていた。
「フハハッ! シネェェェ!」
「チッ!?」
続いて振り下ろされた大剣を、右にずれて紙一重でかわす。
あれに直撃したら、流石にまずい。
俺の直撃は奴を殺せないが、奴の直撃は俺を殺すだろう。
いくら身体強化してるとはいえ、そもそも生き物としての強さが違う。
「何より……やはり歳には勝てんか。流石に全盛期の頃のようにはいかん」
「グフフ、エラソウニイッタワリニハタイシタコトナイナ? サイショノイキオイハドウシタ?」
「確かに、身体中が血だらけだな」
相手は血を流しつつも、その傷はすぐに塞がっていく。
それに対して、俺の血は止まることなく流れている。
そしてタフネスさもあるので、俺の方が先にへばるのは目に見えていた。
「グフフ、イマサラユルシヲコウテモオソイゾ」
「許しだと? ……そんなものは必要ない」
「ツヨガリヲイイオッテ……モウイイ、ワレハアノオンナヲイタダキニイク——キサマハシネ!!」
両手持ちから振り下ろされる大剣を——片腕で止める。
「ナ、ナニ!? バカナァァ!?」
「誰を頂きにいくといった? そんなことさせるわけがなかろうが!」
「グカァァァァァ!?」
空いてる拳でゴブリンキングの腹を殴りつける。
すると、今度は奴が数メートル吹っ飛び……その腹は、ベッコリとへこんでいた。
痛みに耐えられないのか、奴が地面をのたうちまわる。
「ナ、ナンダ? コノチカラハ!? ガァァァ!? ハラガイタイィィィィ!?」
「別に大した話じゃない。言っただろう、歳には勝てんと」
「ド、ドウイウコトダ!?」
「身体に負担がかかるので、全力を出すためには時間がいる。ようやく、身体があったまって来たところだ……さて、ここからが勝負だ」
当然ながら身体強化の魔法も万能ではなく、元の身体を鍛えていないと身体が壊れる。
二十代ならいざ知らず、今の俺ではきつい。
何よりこいつを逃さないため、確実に倒すために力を溜めていた。
「チ、チカラヲヌイテイタダト? コ、ココハイチド……ゲボクドモヨ! ワレノタイロヲヨウイシロ!」
「……上官の風上にも置けない野郎だな、ゴブリンとはいえ同情する」
「ナゼコナイ!? ナニヲシテイル!?」
「お前の手下なら、俺の頼りになる仲間達が倒しているさ。さて……覚悟はいいか?」
「ギィ!?」
ゴブリンキングが背を向けて逃げ出そうとしたので、大剣を両手で構えて……思い切り跳躍する!
「終わりだ」
「マ、マテ——ァァァァァ!?」
俺の振り下ろした大剣により、ゴブリンキングの身体が真っ二つになる。
流石のゴブリンキングも、これでは死ぬしかない。
「ふぅ……なんとかなったか」
相手は俺を恐れたが、言うほど戦闘力に差はない。
相手が逃げずに本気に戦っていたら、俺とて危なかった。
戦いでは戦う勇気と、敵の懐に一歩でも踏み込む気迫がモノを言う。
あのゴブリンキングには、それがなかったのだろう。
「いくら強くとも、部下を粗末にするような者には負けるわけにはいかない……少し血を流しすぎたか」
だんだんと、頭がクラクラしてきた。
気がつくと、俺は木に寄りかかって倒れ込んでしまう。
そして、そのまま暗闇の中へ落ちていく……。