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セレナ視点

 ど、どうしよう?


 仲良くしたくて、思い切って言ってみてしまったけれど。


 ただ、彼の背中を見た瞬間……そんな甘い考えは吹き飛んだ。


 彼の背中は過去の鍛錬や戦いの激しさの残る、逞しい背中だった。


 それは、全て民と兵士を守るために戦った証に違いありません。


「……凄い傷痕ですね」


「見苦しくてすまん。きっと、醜い背中だろう」


 彼の背中は、火傷や矢による傷で酷いことになってる。

 小さな傷は数え切れないほどあり、肩には大きな黒ずんだ痣などもある。

 それは最早、回復魔法でも治せないものだ。

 ただ、それを醜いなどと思うはずがない。

 この大きな背中は、私を含めた沢山の命を救った背中なのだから。


「いいえ、そんなことはありません。それは、貴方が皆を守るために戦い抜いた勲章ですから」


「……そうか、そう言ってくれるか。しかし、背中の傷は恥だと上官には言われていたな。お前は、敵に背を向けたのかと」


「言わせておけばいいんです。だって貴方は最前線で、敵のど真ん中にいたのですから。それに、部下を庇って受けた傷だって多いですし」


「……知っているのか」


「ええ、もちろんです」


 戦争に参加してから、救護テントでそういう話は何回も聞いてきた。

 アイク様が矢や魔法から自分を庇ってくれたとか、敵を引きつけるために敵陣に突撃したとか。

 だから私は、アイク様を直接目にすることは少なかったけど、ずっと素晴らしい方なんだなって思っていた。

 勝手に憧れたり、一度じっくり話してみたいって思ったり。


「……しかし、結局救えなかった命も多い」


「ですが、彼らは死ぬ間際まで言っていましたよ。アイク様に感謝と、申し訳ない気持ちで一杯だと」


「……そうか」


「それに、そういうのはダメって言いましたよ? もっと、前向きに考えましょう」


「くく、そうだったな。いやはや、敵わんな」


 そんな会話をしながら、丁寧に濡れたタオルで背中を拭いていく。

 男兄弟で育った私は、たまに二人の背中を拭いたりもしていた。

 ただ、やはり……それとは違います。

 彼は汗臭いと言ったが、そんなことはなく……男の人の匂いというか、少しドキドキしてきます。

 黙っていると何やら緊張してきました……な、何か言わないと。


「き、気持ちいいですか?」


「ああ、ひんやりとして気持ちいい」


「ほっ、それなら良かったです。そういえば……アイク様は、以前にここに来たことがありますか?」


 私はここに来てから、ずっと気になっていたことを聞きました。

 実は、アイク様とは小さい時に会ったことがあるかもしれないから。


「ああ、十六か十七歳くらいの頃に一度だけ来たことがある。その時は、父と二人で来ていたな」


「っ……! そ、その時の思い出とかってあったりしますか?」


「思い出か……確か、父の知り合いだという男性を紹介されたな。身分はわからなかったが、今思うと高貴な人だったような気がする。そして、娘だという女の子を紹介された」


 やっぱりそうだった! アイク様は、あの時のお兄さんだったんだ!

 私は五歳くらいの時に、お父様に連れられてきたことがある。

 そこで出会ったお兄さんに、迷子になった私は救ってもらった。

 多分だけど私の初恋で……まさか、それが敬愛するアイク様だなんて。

 私は嬉しくなる気持ちを抑え込み、いつ『それは私です」というタイミングを図ります。


「そ、そうなんですねっ。その女の子は、どんな子でしたか?」


「どんな子か……随分とお転婆だった気がする。俺が風呂に入ってると、私も一緒に入るとか言って飛び込んで来ようとしたり。寝ようとすると、私も一緒に寝るとか泣いたり。その度に、お父さんに叱られていたな」


「……あぅぅ、私ってばなんてことを」


「うん? どうした?」


「い、いえ! ……こ、これくらいでいいですか?」


「ああ、十分だ。セレナさん、感謝する」


「こ、こちらこそ! 背中拭かせてもらってありがとうございました!」


「お、おう?」


 よくわからない返事をして、私は慌てて部屋から出ていく。


 うぅー……言い出すタイミングを失ってしまった。


 あんなこと言われたら、『その女の子は私です』って言えないよ〜!









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