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幕間

その後、日が暮れる頃に街に到着する


モルト殿に出迎えられ、ひとまず俺の部屋に案内する。


面子は俺、モルト殿、ナイル、セレナ様、サーラ殿だ。


ギンは庭で寝転び、ガルフは仕事に戻り、他の面子はそれぞれ部屋などの準備をしてもらう。


「さて……何から聞けばいいのやら。まずは、セレナ様についてか」


「まさか、王女殿下が……そのような知らせは来ていないのですが」


「す、すみません! その、手紙を出す前に来てしまって……やっぱり、迷惑でしょうか?」


「いや、そんなことはありません。とりあえず、手紙から確認しても?」


「は、はい、もちろんですっ」


セレナ様から手紙を受け取り、モルト殿と確認をする。

そこには国王陛下の文字と印があり、要約すると『アイク殿の補佐としてセレナを送るので、好きに使ってくれ』ということだった。

補足として先代から仕えてるモルト殿を労いつつ、出来れば二人を引き続きよろしく頼むと。


「なるほど? いや、全然わからん。とりあえず、モルト殿のことを気にかけてるな」


「有難いことですな。もちろん、引き続きお手伝い致します」


「ああ、よろしく頼む。さて……セレナ様」


「はいっ! なんでしょうか!」


なんだ? どうも、少し様子が変だ。

目がキラキラしてるというか、少し子供っぽいというか。

ふむ……戦争から解放されたからかもしれない。

貴重な十代を戦争に捧げたのだ、それも無理もないことだ。


「……まずは、前提として迷惑ではありません」


「それじゃあ……」


「ですが、よろしいのですか? 戦争も終わり、貴女は平和を謳歌する権利があります。まだまだお若いですし。この辺境を変えるのは時間がかかりますので、それは勿体ないような気がするのです」


「いいえ、まだ終わってません。今回の妖魔騒ぎもそうですが、戦争の後こそが重要だと考えています。それに、ここは王家の一族が生まれた場所……私も、何かお手伝いさせてください」


俺は馬鹿か……セレナ様の仰る通りだ。

敵将を倒して戦争が終結したことで、俺も安心しきっていた。

これからは、のんびり過ごそうかと。

だが、それは……もう少し後になりそうだな。


「わかりました。それでは、一緒に頑張りましょう」


「はいっ! アイク様!」


「……アイク様?」


「ここでは、アイク様の方が上官なのですよ? なにせ、領主様ですから。だから、アイク様とお呼びします。あと、私に対しては敬語は無しでお願いしますね」


「そ、それは勘弁して頂けると……」


様呼ばわりもそうだが、王女様に敬語無しとは無理だろ。

すると、サーラ殿が前に出てくる。


「アイク様、諦めてくださいませ。姫様は、ここでは姫様ではないので」


「ど、どういう意味でしょうか?」


「ここに姫様がいるとバレると、いらぬ輩が来る可能性もございます。なので、ここではただの貴族の令嬢くらいでやっていくつもりなのです。姫様も、少しのんびりしたいでしょうから」


セレナ様の人気は絶大だから、あり得ない話ではないな。

それこそ、親衛隊があるという話だし。

そうなると王都とは違い、ここは身を守るには難しいか。

それに、王女と傅かれては気も休まらないだろう。


「それは……わかりました。ですが、敬語をなしというのは……」


「アイク様、これは国王陛下よりの命令でございます」


「へっ? な、なんだと?」


「ふふ、サーラの言う通りですわ。アイク様の下につくのに、敬語なんておかしいですもの」


「ちなみに、ナイル様も知っております」


俺がナイルに視線をむけると、コクリと頷いた。

どうやら、本当に国王陛下の命らしい。

……ならば、従わないわけにはいくまい。


「わかり……わかった、セレナ様」


「もう、様もダメですってば」


「くっ……セレナさんでいいか?」


「えへへ——はいっ、アイク様」


すると、子供みたいに無邪気に笑った。

俺はその姿に、何やら既視感を覚えた。

昔、何処かで見たような気がする。


「つまり、メイドである私にも敬語は無しでよろしくお願いいたします。それでは、姫……いえ、お嬢様。我々は、これで退散しましょう。男同士、積もる話もありますから」


「うん、そうよね。これからはいつでも話せますし……アイク様、失礼しますね。改めて、よろしくお願いします」


「あ、ああ、よろしく頼む」


そして、ご機嫌な様子でセレナ様が部屋から出て行く。

案内としてモルト殿も出ていき、俺はようやく背もたれに腰をかける。

この部屋にはナイルと俺しかないので、気を使う必要もない。


「ふぅ……疲れたぞ」


「先輩、お疲れ様です。その……心中をお察しします」


「全くだ。たかが男爵家出身の俺が、王女殿下を部下にするとか……なんの冗談だ」


「ですが、その方が円滑に進むかと。いつも言っていたではないですか、身分に関係なく指揮系統がしっかりしてないから作戦が上手くいかないと。そのせいで、我々は苦労したのですから」


それは、俺がいつも愚痴っていたことだった。

軍の階級が俺より低いのに、身分を持ち出して作戦を無視したり。

戦場においては、そんなものは何も意味をなさないというのに。

大事なのは、一つの意思の元に動くことだ。


「それはそうだが……それとこれとは話が別な気がする」


「いえいえ、同じことです」


「そもそも、どうしてお前までいる? ここに来たということは、このままいるつもりなのはわかるが……王都で昇進や受勲はどうした?」


「何を仰いますか。王女殿下の護衛隊長を承り、王家が生まれた場所の復興を頼まれたのです。これ以上の誉れがありますかね?」


そう言い、ニヤッとしている。

こいつめ、俺に否定させないようにしているな。

ただ単に、俺について来たかっただけなのだろう。


「言葉だけ聞くと、そういう風に聞こえるから不思議だな。相変わらず、口が上手い奴だ」


「どっかの上官が口下手な人だったので」


「……ほっとけ、どうせ俺は不器用な男だ」


「そんな方だから放って置けないのですよ……先輩、俺は貴方の力になりたいのです。どうか、俺をここに置いてください」


打って変わり、真剣な表情で俺を見つめてくる。

ナイルは優秀な奴だ、きっと引っ張りだこだったろうに。

それを俺のために……有難い話だな。

ならば、俺にできることは……こいつが来たことを後悔させないことだ。


「はぁ……わかった、俺の負けだ。ナイル、言っておくが楽はできんぞ?」


「はっ! 望むところです!」


「ふっ、では遠慮なくこき使ってやろう」


やれやれ、辺境でギンと二人で静かに過ごそうと思ったのだが。


いつの間にやら、人が集まってきてしまった。


どうやら、俺のことを放って置けないらしい。


だが……不思議と悪くない気分だ。





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