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ロールケーキとミイラ

作者: 村崎羯諦

 ロールケーキが食べたい。


 死んだ彼氏をミイラにするために、家のリビングで彼氏の死体を包帯でぐるぐる巻き巻きにしてる時、私はふとそう思った。


 なんでミイラ作りなんてしてる時にロールケーキが食べたくなったんだろうって思ったけど、それはひょっとしたら包帯でぐるぐる巻きにしてる行為がロールケーキを連想させたのかもしれなくて、ひょっとしたらこれはミイラ作りあるあるみたいなのかも、いやそんなわけないだろって自分で自分にツッコミを入れて笑ってしまう。


 お菓子作りとかはよくしてるし、色んなお菓子を自分で作ったりしてるけど、そういえばロールケーキを作ったことがなかったのは、スポンジ生地で生クリームを巻くだけだし、作ろうと思ったらすぐに作れそうだって思ってたから?(←失礼)なのかもしれないし、そもそもコンビニとかコース料理のデザートで見かけるくらいで、ケーキ屋さんとかにいってさあ、何を買おうって思った時には、なぜかロールケーキはあんまり視界に入らないことが多いから、日常生活を送る中でロールケーキというものの存在感が薄いからなのかもしれない。


 彼氏が生きてたらきっと私にバカなこと考えるなーって呆れながら言っただろうなって思いながらも、だけどもう彼氏は死んでて、内臓を抜かれて、防腐処理と乾燥処理をされて、今は私に包帯で巻かれて順調にミイラになりつつあるわけで、ミイラになったらもちろん喋ることはできないし、棺の中で眠りながら、吉村作治に見つかることをただただ待つことしかできない。そういえば彼氏は待つことが嫌いで、行列とかに並ぶテーマパークなんかは死んでもいくかって言ってたし、行列ができているお店が視界に入るたびに、そこに並んでいる人の人格を否定するような悪態をつくような人で、私はそばでそれを聞かされながらうへぇって嫌な気持ちになることが多かった。


 だけど私は、彼氏を愛していた。だから私は、彼氏をミイラにした。


 包帯を巻き終わっても、やっぱりまだロールケーキが食べたくて、こうなったらもう自分で作るしかない、だって、ミイラを作ることよりは絶対簡単だしと、思って、必要な材料と作り方をネットで調べて買い物に行って、家に帰ってくるなり、ちょっとだけ彼氏のミイラ化具合を確認してから、すぐに台所へいってロールケーキを作り始めた。


【材料】

・ 卵:4個

・ 砂糖:100g

・ 小麦粉:100g

・ バニラエッセンス:数滴 (オプション)

・ 生クリーム:200ml

・ 粉糖:大さじ2

・ お好みでフルーツ (イチゴ、バナナなど)


【作り方】

<スポンジケーキの作成>

1. オーブンの予熱:オーブンを180度に予熱します。

2. 卵と砂糖を泡立てる:卵をボウルに割り入れ、砂糖を加えて白くもったりとするまでよく泡立てます。

3. 小麦粉を加える:ふるった小麦粉を加え、ゴムベラでさっくりと混ぜ合わせます。バニラエッセンスがあればここで加えます。

4. 焼く:天板にクッキングシートを敷き、生地を流し込んで平らにならします。180度のオーブンで約12~15分焼きます。

5. 冷ます:焼きあがったら天板ごとケーキクーラーの上にのせ、冷まします。


<クリームの準備>

1. 生クリームを泡立てる:冷えた生クリームに粉糖を加え、固めに泡立てます。


<組み立て>

1. スポンジを広げる:冷めたスポンジケーキの上に生クリームを塗ります。お好みでフルーツを加えます。

2. 巻く:ケーキをゆっくりと巻き、クッキングシートで包んで形を整えます。

3. 冷やす:冷蔵庫で1時間ほど冷やし固めます。


<仕上げ>

1. 切る:クッキングシートを外し、端を切り落としてからお好みの厚さにスライスします。


 もっと複雑な工程が必要なケーキよりもずっとシンプルだったし、作ろうと思えばすぐに作れるじゃんって思ってた私はある意味で正しかったけれど、実際に初めて作ったロールケーキは生地が全体的にふくらまずに固くなってしまって、甘くて固い小麦粉の塊に生クリームを添えたものになって私はかなり落ち込んだけれど、それだけじゃなくて、絶対に一人じゃ食べきれない量を彼氏がまだ死んでない時と同じノリで作ってしまっていたことに気がついて、さらに追加で彼氏がもうミイラになってしまったことを思い出して気分が沈んだ。


 私がロールケーキのような何かを食べながらリビングに横たわっている彼氏に目を向けると、ロールケーキを作る前には確かに天井を見上げていた彼氏がなぜかこっちのほうを向いていて、包帯と包帯の隙間から開き切った瞳孔で私を見つめていたから、私は怖っ!って叫んで、ロールケーキの皿を持ったまま彼氏に近づいていったところで玄関のチャイムが鳴って、インターホンを覗くとそこには警察官が立っていたからオートロックを解除して、それから彼氏の首をもう一度天井を向くように直した。


 1分もしないうちに玄関のチャイムが鳴って、玄関のドアを開けるとさっきの警察官がいて、「服部豊」さんのことでお聞きしたいことがありますと告げられたから、私はそのまま警察官を家の中に招き入れた。家のリビングに入った警察官が、リビングの中央に寝転がっているミイラになった彼氏を見て、これはなんですか? って聞いてきたから、私はそこで初めてミイラを作ることっていけないことなんだっけって不安になって、思わずこれは大きいロールケーキなんですって嘘をついてしまった、ごめんね、平気で嘘をつくような娘に育ってしまって、お父さん、お母さん。


「なるほど、ロールケーキでありますか。本官、ちょうどお腹が空いていたので、いただいてもよろしいでありますか?」


 ロールケーキって嘘をついた手前、私はダメですっていうこともできなかったけれど、警察官は私の返事を聞く前にしゃがみ込んで、包帯でぐるぐるになった彼氏のミイラの頭に大きくかぶりついた。警察官はお腹が空いていたからかどんどん彼氏を食べ進めていったけれど、やっぱり当たり前だけど人一人分の大きさだったから、時間はかかりそうで、私は警察官がお腹いっぱいになるまでの間、さっき作ったままのロールケーキを食べることにした。


 リビングで、私はロールケーキを、警察官はミイラになった彼氏を食べ続ける。食べられている彼氏はその間、またこっちの方を向いて、開き切った瞳孔で私を見つめていた。それと、今更になっていうことじゃないけれど、今日はよく晴れていて、とてもいいお天気だった。

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