表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

トリプル王太子殿下は婚約破棄を高らかに宣言する

そんなに長く続きません、ゆるーく終わります。コメディとして残念なデキかなぁ、と思います。すみません。

 ローリング王国のトリプル王太子には公爵家の令嬢と婚約している。それは貴族社会で知らぬ者は赤子ぐらいだと判断される程に当たり前の事実である。そして貴族社会で知らぬ者は幼児以下だと判断される、王太子関連の事実に、今年で貴族院を卒業すると言うものがある。

 貴族は貴族院を卒業して成人となる。紳士・淑女として認められるのだ。そしてそんな卒業式では新紳士は淑女をエスコートし、新淑女は紳士にエスコートされ、卒業式会場へ入場するのだ。この時、エスコート相手は婚約者になる事が多い。まだ婚約者が居ないケースや何らかの事情があって、エスコート出来ないケースでは親族になるが。そして婚約は学生同士で決まる事も多く、新紳士と新淑女の組み合わせも珍しくない。

 さて。そんな卒業式では最初に入場する卒業生は最も身分が高い者となる。つまり王太子たるトリプルとなる。そしてトリプルには婚約者が居る。即ち、彼は卒業式では婚約者をエスコートして入場して来るのだ。

 

 だがしかし。


 その卒業式で、トリプルは婚約者の令嬢をエスコートしなかった。令嬢は父の公爵にエスコートされ、会場に入場したのだった……。



 会場は卒業を祝う教師、在校生だけでなく、国王夫妻と側近を務める者達を初めとして、普段は王宮に詰めている貴族達が幾人も居る。そしてその全員が固まり、壇上に居る存在をガン見している。

「イリュージョ・ファンタジ公爵令嬢、貴様との婚約を破棄する!」

 指を差し、壇上から大きな声を上げる王太子。息を呑む周囲。

「貴様はこの可憐なドリム・ヒロイン男爵令嬢に醜悪な嫌がらせをした!! その性根、救い難い!!!」

「殿下、一体何のお話ですか? 私には身に覚えが」

「しらばっくれる気かっ!?」

「いえ、ですから、」

「お願いです!! イリュージョ様!! 罪を認めて下さいっ!! 私は謝って頂きたいだけなんですっ!!!」

「おお、ドリム、何と慈悲深い……っ!!」

 壇上で大きく動く王太子。そしてピタリ、と1度静止してから、再び壇上から下へ向き合った。

「ーー以上、寸劇、婚約破棄を終わります。」

 「1人三役、やり切った」と言わんばかりの満面の笑みで、懐からハンカチ(婚約者からのプレゼント【刺繍入り】)を取り出し、額の汗を拭いた。

「ではこれより伝統に従い、卒業生代表として小論文の発表を行います。テーマは『平民より見ゆる王侯貴族』です。」

 傾聴する学生達全員は、最早発表文の内容なぞどうでも良くなっていた。忖度無しの首席の手による、「幾つかの既存の論文内容を参考文献として取り入れながらも独創的且つユーモア溢れる論文で、同時に深い見識を文献内に落とし込まれ、読み手を納得させる理知の道筋が美しい程にハッキリと示されている素晴らしい論文」とべた褒めされ、数百年後の学術書にすら掲載される様な論文なのに、学生達の耳は右から左だった……。



 卒業式の会場の控え室は、身分に合わせて用意されている。王太子の控え室も当然、用意されていた。本来ならば、その部屋で婚約者の令嬢も控える。されどそれは王太子のエスコート相手だからだ。王太子がエスコートをしないならば、令嬢は公爵家用の控室に行く。当然、トリプル王太子の婚約者である公爵令嬢ールリアナ・ジェネレウーも公爵家用の控室に向かう。中には現在、ローリング王国に5つある公爵家の1つ、ハンダリ家の令嬢ネクスとその婚約者が居た。尚、残りの公爵家は卒業生も居なければ、卒業生をエスコートしたり、卒業生にエスコートされたりする者は居なかった。

「どうなさられたの?」

 一通りの挨拶の後、ネクスがルリアナに尋ねた。その視線が一瞬だけルリアナの父である公爵に向く。ルリアナが父親にエスコートされると言う事は直ぐに気付いただろう。つまりそれはトリプルにエスコートされないと気付いたとも言い換えられる。何があったのか、と気になるのは当然だった。

「いえ……、それが小論文の発表準備が有るから、とエスコートを断わられまして……、」

 少し憂い顔になるルリアナにネクスもまた思案顔になる。

「首席の卒業生代表が小論文を発表するのは毎年の恒例だけど……、」

 そこで止まるのは困った顔のネクスの婚約者だ。彼の言いたい事は伝わっていた。即ち小論文発表者でも婚約者とのエスコートは必須で有ると……。

「また何か……、」

 そこで止まったのは不敬になると思ったからか。だが年代が1人離れている遠慮からか、黙っている公爵も含めて、この場に居る全員が同じ懸念を持っていた。即ち……、


 また何かやらかすんじゃないかと……。


 彼等がその予測が当たったと分かったのは、入場直前、扉前の整列時……、トップバッターとなるトリプルを見た時である。

「おお、ルリアナ、美しいな! 今日はエスコート出来なくて済まない。公爵! 手間をお掛けした、感謝する。」

「いえ、勿体無いお言葉ですわ。美しいドレスや揃いのアクセサリーも頂きましたし。」

「我が娘の為に有り難く。」

 言葉、姿勢、態度は問題ないが、その目は遠く、胸中は穏やかではない。


 ーーやっぱりやらかしてる!!!


 ーー良かった、エスコートされなくて!!!


 この2つの気持ちがルリアナの中で暴れている。恐らくは公爵もそれに類似するだろう。序に言えば、トリプルを視界に入れている卒業生達は全員、トリプルから視線を外している。その胸中は「うわあ……」なるものである事は推して知るべし。


 そして入場。先に会場入りしている卒業を祝う大人達はトリプルの姿を見て、目をひん剝いた。最早、貴族の仮面は剥がれている。


 ……トリプルの姿。その左側面は問題無い。美しい金髪が映える青を基調とした、王太子に相応しい装いだ。マントの内側の刺繍がどピンクの色で行われているのは気に掛かるが……。

 そして右側面。同じく青を基調とした()()()になっている。ピンクブロンドのカツラとピンクに()()()髪飾りが右頭部を支配している。顔はご丁寧に右側だけメイクされていた。

 更に最後に背面。前から見れば青いマントに見えていたが、実はマントの外側は黒と赤を基調としたドレスとなっている。トリプルの首の位置にはリアルな人の顔(メイク済)をした仮面が貼り付けられており、黒髪のカツラまで着いている。

 衣装の生地は王太子に相応しい一級品。アクセサリーも言わずもがな。それ以外も一級芸術品に使われる様な素材で創られていた。

 

 そんな格好で堂々とトップを歩く我が子に対して、頭が痛そうな王妃の口が動いていた。

「いつの間に……、」

 扇で口元が隠し切れていない。痛恨のミスだが致し方無い。恐らくは「いつの間にあんなのを用意していたか」だろう。尚、トリプルは非常に万能だ。手先の器用さも含めて。無駄に。超一流の職人にも劣らない程に。無駄に(←ここ大事!)。


 何でコレで頭が良いのだろう。頭良すぎて、一周回って何とやらか。


 等と感じるのは母親である王妃だけでなく、婚約者のルリアナも同様だ。そして話は冒頭へ戻るのだ。


 ーー(左側面を観客?に向けて)イリュージョ・ファンタジ公爵令嬢、貴様との婚約を破棄する! 貴様はこの可憐なドリム・ヒロイン男爵令嬢に醜悪な嫌がらせをした!! その性根、救い難い!!!


 ーー(背中を観客?に向けて)殿下、一体何のお話ですか? 私には身に覚えが、


 ーー(左側面を観客?に向けて)しらばっくれる気かっ!?


 ーー(背中を観客?に向けて)いえ、ですから、


 ーー(右側面を観客?に向けて)お願いです!! イリュージョ様!! 罪を認めて下さいっ!! 私は謝って頂きたいだけなんですっ!!!


 ーー(左側面を観客?に向けて)おお、ドリム、何と慈悲深い……っ!!


 と言う感じで………………………。




 

 そして後年、特に王家有責の婚約破棄も「君を愛する事は無い」初夜宣言も無く、無事に2人の間にはふっっつーに子が出来る。王太子妃ルリアナはそうは滅多に無いママ友との茶会にて、子育てに対して、こんな言葉を発したそうだ。


 皆違って、皆変。と。







〈おまけ〉

トリプルの目覚め。

「何をなさってるの?」(現王妃【当時は王太子妃】)

「ははうえ、ルリアナがかわいそうです。ルリアナのははぎみがなくなられて、ルリアナがいつもないてるそうです。だからげんきづけたいのです。」(トリプル)

「……そのドレスは?」(現王妃)

「はい。いぜん、ルリアナのやしきでむかえてくれたふじんのどれすをがんばってさいげんしました!」

「……ドレスの注文指示なんて聞いていませんが……、『頑張って』?」

「恐れながら、トリプル殿下は王子宮内に保管されている布地(本来の用途は服飾用以外の、カーテンやテーブルクロス等の布製品を創った際の予備。下げ渡し等に丁度良い【記録はその際に取られるが、王子自身が使うならば……、と言う漏れ】)をお使いになられて……、」(メイド)

「え。」(現王妃)


「ルリアナ、おかあさまですよ、いらっしゃい。」(トリプル、声真似中)

「おかあさまのおこえがでんかから! ……おかあさまぁ〜!」(ルリアナ、まだ純粋) 

(無駄に妻そっくり!!)(現公爵【当時は公爵後継者】)


 「純粋な子供心だから……」と、止めないのが間違いだったと頭を抱える大人と、自分の為に始めた事が切っ掛けなので、止めるに止められないルリアナ。やがてトリプルは平民にまで「奇行種」と呼ばれる王となる。

お読み頂きありがとうございます。大感謝です!

前作品への評価、ブグマ、イイネ、大変嬉しく思います。重ね重ねありがとうございます。


ローリング王国 

英語 役割(role)より→ロール→ローリング


王太子トリプル 

英語 3重の(triple)より→トリプル

1人三役にしようかと思ってましたけど、ネタバレになるかな、と……


公爵令嬢イリュージョ・ファンタジ

英語 幻想(illusion)+幻想(fantasy)

→イリュージョン+ファンタジー

→イリュージョ・ファンタジ

まんま(笑)


男爵令嬢ドリム・ヒロイン

英語 幻想の(dream)+女主人公(heroine)

→ドリーム+ヒロイン

→ドリム・ヒロイン

まんま(笑)


公爵令嬢ルリアナ・ジェネレウ

英語 

現実の(real)→リアル

+現在(now)→ナウ

+世代(generation)→ジェネレーション

リアル+ナウ+ジェネレーション

→リアル+ナウ+ジェネレ→リアルナ・ウジェネレ

→ルリアナ・ジェネレウ


公爵令嬢ネクス・ハンダリ 英語 次の(next)

→ネクスト→ネクス

ハンダリに付いてはまた次回?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ