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「カナリーエ・リールント!これから貴殿を我がファルラルト王家の名の下に断罪する!!」
パーティー会場のど真ん中。
煌びやかな世界の中心で、美しいその男は言い放った。
彼女の妹の腰を抱き、強い意志を感じさせるその瞳で。
「は…」
いつもの様に家の侍女に着せられた、重たい伝統のドレスを身につけた彼女の喉からは、乾いた息が漏れただけだった。
そんな彼女を知ってか知らず、目の前の王子様は胸を張って続けた。
「お前は、王太子の婚約者という身分を笠に着て、多くの力なき令嬢たちを虐め、あまつさえ己の妹すら虐げた。これは、国母として相応しく無いだけでなく、肉親をも貶める悪逆非道な行いだと言えるだろう。」
男の言葉に呼応するように空気が揺れる。
周りを囲む貴族たちから、次第に咎める様な声が上がり始めた。
彼女は浅く息を吸った。
「さらに、お前は己の妹を虐げるに飽き足らず、遂にその命を奪おうとさえした。これは、立派な殺人未遂であり、王国の法に則り然るべき処罰を受けるべき行いである!」
毅然とした声はまだ続く。
彼女の妹は、庇護欲をそそるその目を伏して、怖かったと己に触れる男に身を寄せた。
その姿に観衆は哀れみの視線を向けた。
彼女は浅く息を吐いた。
「しかしだ!お前の今までの準王太子妃としての功績と、次の国母となるお前の妹の嘆願によって酌量し、お前を婚約破棄の後自宅謹慎の刑とする!」
突き刺すような声が轟いた。
周囲の声は、男の自信に満ち溢れた態度に感嘆し、彼女の妹の優しさに感激した。
そして、それを受けてもなお身動ぎひとつせず、顔を伏したままの彼女に咎めるような視線を寄越した。
彼女は浅く息を吸った。
「なにか申し開きはあるか!」
決定事項の様に言葉を連ねたあと、男は彼女にそう尋ねた。
まるで謝罪を求めるかのように。
彼女は浅く息を吸った。
「お姉様!あたし、お姉様がそんな酷いことをするはずないってずっと思ってて…でも、シャルルが嫌なことは嫌と言うべきだって背中を押してくれたから…だから、ね、お姉様……」
謝罪を要求する言葉は彼女の妹の口の中に消えた。
瞳に沢山の涙を浮かべ肩をふるわせる幼気な少女に、衆目は哀れみのため息をついた。
そして、こんな目に合わせる極悪非道な彼女を鋭い視線で責め立てた。
彼女はなにかを話そうと口を開いて、そのまま浅く息を吸った。
息ができなかった。
苦しかった。
吸いすぎた空気が上手く吐けない。
苦しいのに空気を上手く吸えない。
いつも出来ていたはずの行為が出来なくって。
焦ってもっと出来なくなって。
浅く吸って浅く吸って浅く吐いてまた浅く吸って。
ヒューヒューと隙間風のような呼吸になって、立っていられずに膝を着く。
観衆はそれでも咎めることを辞めなかった。
今更被害者のような態度は許さないと。
膝をつき苦しげにする彼女を自業自得だと見下ろした。この後に及んで往生際が悪いと見下した。
彼女は涙で霞む視界の中で、きらりとした輝きを見た。
彼女は震える手を光に向かって懸命に伸ばした。
その輝きは、王太子のもつ剣だった。
彼女は水の中のような息苦しさの中で、目の前の光に言った。
「どうかそのまま、私を壊して。」
それきり視界は暗くなった。
何も聞こえず何も見えない。
ただ、最後に必死な男の声が聞こえた気がした。




