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心を貫いてそのまま壊して  作者: 華月彩音
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3

読んでいただきありがとうございます。

別に彼女はひとりぼっちという訳ではなかった。

彼女は、母に愛されない代わりに乳母に育てられ、乳兄弟と転げ回りながら育った。

乳母は、実の子と変わらない位関心を向けて、大切に育ててくれた。

彼女の家の使用人たちも、実の子でありながら冷遇され乳母に育てられ、愛を向けられないその子のことを哀れんでいたし、素朴で心優しいその子に対して悪感情を抱いてはいなかった。


彼らは、彼女に与えてくれた。

心を壊さず育つために必要な関心を、知識を、生きていくために必要なモノを。

だが、彼らは与えられなかった。

彼女の欲する唯一絶対の愛を。


だからといって、彼女は突然できた異母妹を疎んだ訳では無い。

寧ろ彼女は、新しく出来た家族を大切にしようとした。

歩み寄り仲良くなろうとした。

彼女は知っていたから。

兄弟というものを。

彼女の乳兄弟は、弟がいたから。

今でこそ、外に学びに出ているせいで、疎遠になってはいるが、彼女は乳兄弟と実の兄弟のように育った。

だから彼女は、血の繋がりのあるその愛らしい娘と、姉妹のように仲良くなることを願った。

それは、何の打算もない純粋な好意だった。


そんな彼女のもうひとつの不運は、彼女の妹が、彼女を恨んでいた事だろう。

彼女の妹は、初めて屋敷に連れられた時に、その屋敷の大きさに驚いた。

キラキラした宝石の数に心踊った。

美しいドレスに瞳を輝かせた。

同時に、それを産まれた時から甘受している己が姉を羨んだ。

そして、憎んだ。

彼女を超えてやろうと心に誓った。


だから、彼女の妹は彼女の王子様を奪おうと企んだ。

貴族に見初められるほどの美貌を持つ母に似た、その姿を活かして。

実際、それは上手くいった

彼女の王子様は、常に完璧で美しい彼女に、それでも足りないと努力を辞めぬその姿に、コンプレックスを感じていたから。

だから、ただ、笑っているだけでなんの害もないその少女に惹かれた。

彼女の王子様は、あっという間に彼女の妹の物になったのだった。


だが、彼女は、彼女の王子様に対して恋心を抱いていた訳では無い。

いや、そう言ってしまうと嘘にはなるが、ただ、彼女の王子様が奪われたことは、怒り狂うほどのものではなかった。

なぜなら、彼女は期待していなかったから。

彼女が幾ら望んでも、愛を与えられたことはなかったから。

だから、彼女は己の恋心に気づかなかったし、彼女の婚約者であるその王子が、彼女の妹に心惹かれていると気づいても、彼女は空虚な寂しさを感じただけだった。


だが、彼女の心には小さな歪みが生まれていたのだろう。


彼女の婚約者が、学園の卒業パーティーの直前に婚約の破棄を申し入れた時。

彼女の父が喜んでそれを受けた時。

彼女の異母妹が、勝ち誇ったような目でこちらを見てきた時。

彼女の元婚約者が、彼女の妹と2人きりで逢瀬を重ねている事に気がついた時。


彼女の心は少しずつ壊れて。

壊れて。

壊れて。


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