7話 ギゼフの驚き その2
ギゼフ・ランバル侯爵視点……。
「くそっ……くそっ! なんということだ……!」
私は爪を噛みながら私室で唸っていた。まさか、サリシャスが絵の作成を断って来るとは……完全に予想外だ。この侯爵からの依頼を断るとは……一体、何があったのだ?
「ギゼフ、落ち着いた方が良いと思うわ。焦っても何か変わるわけじゃないんだし」
「それは分かっているが……ロドリー」
ロドリーは私とは違って冷静なようだった。まあ、彼女は直接は損をするわけではないからな。しかし、私の場合はそうはいかない……絵画ビジネスが続けられないとなると、大損をしてしまうばかりか、ランバル侯爵家の信用問題にまで発展してしまう恐れがあるのだ。
なんとしても、サリシャスの正体を暴いて絵を描かさなければならない……最終的な手段で言えば、強制的にでも。画家というのは大抵、個人主義者が多い。サリシャスもおそらくは、田舎の村々に住んでいるパターンだろう。田舎の村で小さな事件が起きたとしても、王家などに伝わる可能性は低い。
よし、大丈夫だ。まずは多めの金を提示して買収を考えてやるとするか。もしかしたら、今までの額では納得できなくなっただけかもしれないからな。
「なんとしても、サリシャスを見つけ出さなくてはな……」
「絵画ビジネスというのは、そんなに儲けられるものなの? サリシャスから買った絵を高めに売るのでしょう?」
「まあな。大体は3~4倍くらいの価格で売っていた」
「まあ、3~4倍も? それで売れているの?」
「ああ、そうだな」
それが売れるのだ。仕入れ額から換算すれば3~4倍というのは、そこまで高額だとは思わないしな。絵画によっては10倍で売っていたこともあったか。まあ、諸外国の要人ならば買ってくれる。サリシャスは人気の画家だし、他国の者が直接連絡を取ることは難しい。私が間に入り仲介料も込みで貰っているのだ。
「しかし、今回の件でサリシャスから断られたのは手痛いことだ。外国の要人を招くパーティー開催も検討していたが、それが流れてしまう可能性があるからな」
「そうよね……それならば、なんとしてもサリシャスを探さないといけないわね」
「そういうことだ」
ようやくロドリーにも事の重大さが伝わったようだ。と、そんな時、私の部屋の扉がノックされ執事のバナードが入って来たのだ。なにやら焦っているようだが……。
「し、失礼いたします、ギゼフ様……!」
「どうかしたのか、バナード?」
「は、はい……それが、サリシャスの正体が分かりました!」
「ほう、それはでかしたぞ! よしよし、流石はお前が編成した調査隊だな。期待を裏切らない」
「あ、ありがとうございます。しかし、問題はその正体でして」
ん、どういうことだ? サリシャスの正体に問題があるということか?
「サリシャスの正体は誰だったのだ?」
「それが……シェイナ・アルバート伯爵令嬢のようです……」
「な、なんだと……!?」
「ま、まあ……!」
私もロドリーもその報告には度肝を抜かされた。いや、まさかそんなことが……同姓同名の別人なのではないのか? あのシェイナがサリシャスの正体だと……?