3話 王子の訪問 その2
「失礼する、レッグ・アルバート伯爵。それから、シェイナ・アルバート令嬢」
「ようこそお越しいただきました、キース・フラウスター王子殿下。歓迎いたします」
「ありがとう」
私とお父様は簡易的な挨拶を済ませ、キース様を応接室に招いた。キース様はとても穏やかな笑みを私達に向けてくれている。流石は第二王子殿下なだけあるわね……周囲を囲む護衛の数も多い。応接室には彼以外に二人の護衛が入っていた。
護衛の方々は、キース様に触れる者は誰であっても容赦しないという雰囲気を見せている。
「急に来てしまって申し訳ない。それにも関わらず歓迎してくれたことには感謝する」
「いえ、とんでもないことでございます。王子殿下……その」
「なにかな、レッグ殿?」
「はい、ご用件をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「ああ、そのことなんだが……」
キース様は少し口ごもっているようだった。どういう用件なのかしら?
「あの、キース様……絵画についてのお話でございますか?」
「いや、サリシャスの絵画のことではない。一応、そちらの進捗具合も聞こうとは思っていたが」
どうやら、絵の方はついでの用件みたいね。ちなみにキース様は私がサリシャス本人であることを知っている。意外と周りには知れ渡っていないみたいだけれど。
「本題としてはその……シェイナ嬢の婚約破棄についてだ。大丈夫なのかと思ってな」
「キース様……心配してくださったのですか?」
「当然だ。急に決まったギゼフ・ランバル侯爵との婚約破棄……王家も驚いていたからな」
「そうだったのですね……」
フラウスター王家にもしっかりと伝わっているみたいね。まあ、当然のことなのだけれど……なんだか恥ずかしいわ。
「ギゼフ殿から婚約破棄の理由は聞いていないが、彼は幼馴染との婚約を進めている背景があるようだ。もしかすると、婚約破棄の原因は……」
そこまで知られているなら、隠しておくことは出来ないわね。私は恥ずかしかったけれど、正直に話すことにした。
「はい、キース様もお気づきかとは思われますが、彼の……ギゼフ様の浮気でございます」
「やはりか……」
「ギゼフ様は幼馴染の方と結婚する為に、強引に私との婚約破棄を進めました」
今、思い返すだけでも悲しみが込み上げてくる……私はまるで道具のように捨てられたのだから。貴族として、いえ、人として最低な行いだと言えるだろう。
「大変なことがあったのだな、シェイナ嬢。心から同情するよ」
「ありがとうございます、キース様。キース様からの依頼の絵に関しては、必ず期日までに仕上げますので」
「その辺りは気にしなくても大丈夫だが、まあ、期待しておくよ」
「はい、ご期待ください」
キース様は優しく微笑んでくれた。不思議と顔が熱くなるのを感じる。
「それにしても……ギゼフ殿の家系は今後、手痛いしっぺ返しを喰らうことになるかもしれんな」
「キース様……?」
ポツリとつぶやいたキース様。その意味に関しては、今の私には理解出来なかった。