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2話 王子の訪問 その1

「シェイナ……無理に絵を描く必要はないのだぞ? 精神的に辛いなら、キース王子には私の方から言っておくが……」


「お父様、お気遣いありがとうございます」



 理不尽な婚約破棄騒動から1週間以上が経過した。私は現在、部屋に籠って絵を描いている。婚約破棄の一件があったので、お父様は心配してくれているけれど、趣味に没頭した方が気が紛れるのだ。



「でもお父様、私は平気ですよ」


「そ、そうか……?」


「はい。それにキース・フラウスター第二王子殿下からの依頼の絵ですので。遅れるのは先方に対して失礼になります」


「う、うむ……フラウスター王家直々の依頼だからな」


「そうですね」



 絵の制作依頼に前金でそれなりの額を貰っている。残りは絵を渡す時に支払って貰える約束だ。相手が王家ということもあり、制作については他より優先する必要があった。私自身がこういうのもなんだけれど、サリシャスの絵は現在、予約待ちが多い。


「ですのでお父様、私のことは気にしないでください。今のところは大丈夫ですから……」


「わかった。くれぐれも無理のないようにな」


「はい」


「それから、婚約破棄の件はお前が関わらないように手配しておこう」


「ありがとうございます」



 お父様はそれだけ言うと、私の部屋から出て行った。とてもありがたい話だ……私もギゼフ様とは二度と会いたいとは思わないし……。今、会ってしまうとアレルギー反応を起こしてしまいそうだわ。



「シェイナ様、お話しさせていただいても宜しいでしょうか?」


「どうかしたの?」



 メイドの一人であるライズが声を掛けて来た。私と同じ18歳の女性だけれど、10年前からこの屋敷で働いている。周囲のメイド達よりもむしろ、ベテランなくらいだった。



「はい……絵のことなんですが」


「私の絵のこと?」


「いつ見ても惚れ惚れする程の色彩ですね、予約待ちでも買いたいと思う貴族の方々の気持ちが分かります」


「あはは……ありがとう、ライズ」


 このやり取りは果たして何度目になるか……私の絵画歴も長いので自然と多くなってくるけれど。ライズに褒められるのは本当に嬉しかった。



「そう言えば、キース王子殿下はアルバート家へ直接取りに来ると聞いていますが……」


「ええ、最初はそうだったみたいね。流石に申し訳なかったから断ったけれど……」



 そんな話をしていると、ドタドタと廊下を走る音が聞こえて来た。私の部屋に近づいているような……。



「シェイナ、大変だ!」


「お、お父様……? どうかされたのですか?」



 血相を変えて入って来たのは、先ほど出て行ったお父様だった。非常に慌てている様子だ。



「はあはあ、キース王子殿下が来ているぞ!」


「ええっ!?」



 私はビックリしてソファから立ち上がった。その勢いで絵を倒しそうになってしまう。なんとか支えたけれど。


 キース王子殿下がこのタイミングで来るなんて……どういうことかしら?


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