16話 キースと話す
「済まない、シェイナ嬢。また来てしまったよ」
「いえ、キース様。お待ちしておりました」
久しぶりのキース様との対話が実現して私は嬉しかった。まだ3週間なのだけれど随分と懐かしく感じてしまう。ライズの言う通り、私はキース様がお越しになることを待ち望んでいたようね……。
「ふふふ」
ライズは部屋の隅で紅茶を淹れてくれているようだ。怪しい微笑みは相変わらずだけれど。彼女はメイドというのは仮の姿で王家直轄の暗殺部隊に所属しているとかあるのかしら? そんなことがあっても不思議じゃない気がしてきたわ。
まだ私と同じ18歳のはずなのに……この違いは何なのかしら。
「絵の方はどうだい?」
「はい、おかげ様で。制作は順調に進んでいます」
「そうか、なら良かった。今日来たのは例の調査の件だよ」
「はい、ギゼフ様が私の絵を集めている件ですよね?」
「ああ、そういうことだ」
あれから3週間ほどが経過している。キース様の調査もある程度進んだということなんだろうか。
「それで……どうなったのでしょうか?」
「想像以上にギゼフ殿の手口は陰湿だったよ」
思わず私は顔をしかめてしまった。話を伺う前から結果が分かってしまったような印象だし。
「安い価格で買い取りをしている例もあるようだが、侯爵という地位を使って半強制的に奪っているようだ」
「そ、そんなことを……」
なるべく儲けを考慮すれば元手は少ないに越したことはないけれど、よりにもよって強制的に奪うなんて暴挙に出るとは……。確かに他国の貴族からの信用を失わないようにするには、それしかないのかもしれないけれど、強引すぎる手口のような気がしてしまった。
「サリシャスの絵にはそれだけの価値がある、ということなんだろうな」
「制作者としては見過ごせません、そんなこと……」
「そうだな。全て金で購入している場合は口出しするのは難しかったが、この手口は明らかに違反だ。こんなことを許していてはフラウスター王国の沽券に関わってしまうからな。貴族社会が根本から揺るぎかねない」
確かにその通りだ。それにこの事実が他国に知れ渡るだけでも信用問題になるし、貴族の中での不平不満に繋がっていく可能性だって考えられる。何よりも私自身が制作した絵をギゼフ様に渡したくない。間接的にでも渡ってしまうのは何とか避けたかった。
「直接、話をしに行くか。証拠は揃っているので、どんな反応があるか楽しみだな」
「私も同行させていただけますか?」
「ああ、大丈夫だよ。護衛も付けるから心配しないでくれ」
「ありがとうございます、キース様」
私は立ち上がりキース様に礼をした。同行させて貰えるのは本当にありがたいし。
「紅茶でございます」
「ああ、ありがとう」
タイミングを見計らっていたのか、ライズが二人分の紅茶を出してくれた。私達はその紅茶をいただくことにする。そういえば彼女からはキース様に甘えるように助言されていたけれど、流石に今はそんな雰囲気ではないわね……。