12話 悪あがき その1
「サリシャス……いや、シェイナ。私がここまでお前のことを褒めているのに、お前は何も感じていなかったと言うのか?」
「当たり前です、ギゼフ様。逆にこの状況での褒め殺しは不自然とすら思えてきますから。謝罪もする気がないようですし、ギゼフ様に絵を描いている時間があるのなら、他の方への依頼を早く済ませたいところですね」
「お、お前は……!」
ギゼフ様はまた態度を豹変させたようだ。褒め殺しの時も不気味なくらい明るい口調になっていたけれど、今回は憎悪を滲ませたような顔つきになっている。まあ、今さらそのくらいで怯んだりしないけれど。
「ならばどうやったら私に絵を描いてくれるのだ!?」
「そうですわ! 絵を描く条件を言ってくださいな!」
ロドリー様もギゼフ様の発言に便乗するかのように叫んでいた。二人とも余裕が無くなっているわね……。
「ですから、お二人に絵を売ることはもうありません。依頼も全て断ると申し上げております」
「しっかりとした謝罪をしても、私にはもう売らないと言うのか……?」
「先ほどからそのように申し上げておりますが」
ギゼフ様は何を聞いていたのだろうか? 今のこの人を見ているとランバル侯爵家は大丈夫なのかと疑ってしまいたくなる。
「なるほど……お前の本心は分かった」
「分かっていただけましたか、良かったです」
そこまで言うと、ギゼフ様はゆっくりと立ち上がった……。
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ギゼフ・ランバル侯爵視点……。
「ギゼフ様、良かったんですの? いきなり帰ってしまわれるなんて……」
「仕方がないだろう、ロドリー。シェイナは私に絵を描く気がないのは明白だ……脅しを掛けたところでそれは変わらないだろう」
「そうかもしれませんが……」
私とロドリーは馬車に乗って、自分達の屋敷を目指していた。あれからすぐにシェイナの屋敷を離れたのだ。彼女の決意は相当なものだ、あれを覆すのは難しいと判断した為であった。
「ではこのまま泣き寝入りしますの? そうなれば、絵画の販売が出来ずに信用問題に繋がるのでは?」
「それは分かっている。作戦は考えてあるさ」
そう……私はシェイナとの会話の中である作戦を思いついたのだ。彼女は一刻も早く他の貴族の為に絵を描きたいと言っていた。私の依頼がキャンセル扱いになるなら、その時間も他の貴族の依頼に回されることになるだろう。
他の貴族が買った絵画を私が手に入れれば良いのだ。なるべく安価でな。諸外国の者達には偽物を販売するという選択肢もあるだろう。まあ、こちらは最終手段になりそうだが……。
「心配するな、ロドリー。私の作戦は必ず上手くいくさ」
「さ、左様でございますか……それなら、安心ですわね」
「うむ」
待っていろシェイナめ……お前などに頼らなくても必ず私は絵画の販売ルートを確立してみせるぞ。