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依存


                  ◆


 放課後。

「漣。帰ろうぜ」

「ん、オッケー」

 教材の入った学校指定鞄を肩にかけ、浩二と雅とともに正面玄関へと向かう。

「浩二、今日は部活無いのか」

「まーな。うちのバスケ部は弱小だし、練習自体週三くらいしかないからな」

「まったく、そんな怠けた志だから弱小止まりなんだぞぉ」

「帰宅部の雅には言われたくないっつうの」

 雅の忠告に対し、浩二は彼女の頭を軽く小突いて答える。

 こんなにナチュラルに頭コツンができるなんて、流石イケメン。と、僕は二人のいちゃつき場面に関心を見出していた。

「そういえば、漣は部活とか入んないのか?」

「あー、そいえば中学の時から万年帰宅部だったよね。なんでなんで?」

 浩二は中学からバスケ部、雅は中学一年から三年まで吹奏楽部に所属していた。高校にも一応吹奏楽部はあるのだが、それでも雅がそこに入らないのは彼女なりの理由があるのだろう。中学の頃から気分屋だったし、単純に飽きただけかもしれないけど。

 まあ、二人のことは良いとして、僕が部活に入らない理由。

 それは、

「特に理由はないよ。部活とか大変そうだし」

 何処までも単純でわかりやすい動機だ。

 汗水流して、スポコンマンガさながらの青春を謳歌するのもそれはそれで楽しいのだろうけど、生憎僕はそんな柄じゃない。

 まずうちはこれと言って強豪校とかでもないし、ここでやる部活なんて趣味の延長のようなものだ。

「理由ないならバスケ部入ろうぜ」

「二年の夏から途中入部なんて嫌だよ」

 既に部内の人脈構成図は完成されている。

 そこに特別凄い才能を持ち合わせたわけでも、すぐに人と仲良くなれるようなコミュニケーション能力を持ったわけでもない人間が入ったって、ボッチコースまっしぐらになるだけだ。

 僕は浩二と仲が良いが、別にバスケ部と仲が良いわけではない。そりゃあ浩二を通じで多少の接点はあれど、友人と呼べるほどの仲でもない。

「……それに、バイトもあるしな」

「えっ、漣ってバイトしてたのか?」

「ん、まあね。ちょっとしたバイト」

「へぇ~! あの人生常時省エネモードみたいなレンがバイトしてるなんて、今世紀最大のビックニュースだよ!」

「お前が僕のことをそんな風に思っていたことの方がビックニュースだよ」

 僕ってそんなに手を抜いているような人間に見えるのか。結構ショックだ。

 これでも僕は人生を楽しもうと全力で生きているつもりだ。

 ——なんて、そんな談笑を交わしながら玄関を目指し廊下を歩いていると。

「雨無君」

 つい先ほど、帰りのホームルームでも聞いた優しい声が僕の名前を呼んだ。

「あっ、ツムちゃんだ!」

 僕より先に振り返った雅が嬉しそうに声の主の愛称を呼ぶ。

 続いて僕が振り返ると、そこには出席簿を片手に持った雷坂先生の姿があった。

「雷坂先生。どうかしましたか」

「実は雨無君の進路のことで話があるから、明日の放課後時間作ってくれる?」

「あー……」

 僕は一度、雅の方を向く。

 彼女は雷坂先生を見つめていた。

 いつも明るい雅が、その時だけは無表情で先生を見つめていた。

 これは、少し気を使った方がいいか。先約なわけだしな。

「えっと、明日の放課後はちょっとやらなきゃいけないことがあって……。それが終わったらでもいいですか」

「ああ、うんいいわよ。じゃあ明日、その用事が済んだら進路相談室に来てくれる?」

「はい、わかりました」

 事務的な事だけ伝えると、雷坂先生は早々に職員室に戻って行った。

「漣さ、最近ツムちゃんと進路相談してるの多いな」

「ああ、まあちょっと進路について相談事を、な」

「そんなこと言って、ホントは美人教師と二人きりになる口実作ってるだけなんじゃねぇかぁ?」

 ニヤニヤと茶化すような笑みで浩二が僕の脇腹を肘で小突いてからかう。

「ンなわけないだろ」

 と僕は突いてくる肘を払い除け、廊下を歩く。



 外靴に履き替え校舎をでると、校門辺りでちょっとした人だかりができていた。

 そこの中心には停車した黄色の軽自動車の車体に体をよし掛けて立っている女性がいた。

 ビジネススーツとタイトスカートに身を包み、くすんだ黄土色の髪は後ろでお団子のひとまとめにしており、大人のOLといった雰囲気の彼女だが顔立ちからは何処かあどけなさが抜けない。

 可愛さと美しさを絶妙な具合で調和させたような容姿に多くの下校中生徒が目を奪われ、結果としてちょっとした人だかりが出来上がったのだ。

「わぁ、キレーな人」

「校門前にいるってことは、誰か待ってんのか?」

「ああ、僕を待てるんだと思う」

「「ふ~ん。…………え?」」

 この二人、リアクションまで息ぴったりだ。

 いやまあそんなリアクションを取るのもわからなくはない。

 冴えない男子高校生に人の目を引くほどに綺麗なお姉さんがわざわざ学校まで迎えに来た、しかもそれが自身の友人の事ともなれば、必然的にリアクションは単一化される。

「えっとぉ、……冗談?」

「……」

「ではないよね」

 僕の人柄から雅はそう察した。

「え、ま、マジで?」

 しかし、浩二はまだ半信半疑のようだ。

 まあ、見栄とか冗談とかの方が説明の効く事象だから無理もない。

「あっ! 漣くーん!」

 だが事実だ。

 彼女は僕を見つけるなり、大声で名前を呼んで大きく手を振る。

 それは彼女が僕を迎えに来たということを事実だと裏付けるのに十分だった。

 彼女はコツコツとハイヒールを鳴らしながら足早に僕の下に駆け寄ってくる。

「ごめん姉さん。待たせちゃったよね」

「ううん。これくらい大丈夫だよ」

 口ぶりからして相当待たせてしまったみたいだな。授業が終わる時間をあらかじめ伝えておくべきだったな。

「えっ、姉さん? 漣って一人っ子じゃなかったか?」

「ああ、そうだよ」

「でも、その人の事姉さんって……」

「ああ、姉さんだからな」

「「???」」

 二人揃って首を傾げる。

 どうやら僕の言葉が足りないようだ。

「姉さんといっても親戚の姉さんなんだ」

「初めまして。漣君の親戚のお姉さんの安曇あずみ はなです」

 一回り歳が下の高校生相手に敬語でわざわざ頭を下げて挨拶をする姉さん。きっと仕事の習慣なのだろう。

「「あ、初めまして」」

 それに対して二人も頭を下げて挨拶をする。

「えっと、安曇さんはどうしてここに?」

「実は少し漣くんに用事があって迎えに来たの。悪いけど、貴方たちのお友達を貸してもらってもいいかしら」

 雅の問いに姉さんは丁寧に答える。

「ええ、もちろん。こんなのでよかったら是非」

「おい、誰がこんなのだ。誰が」

 浩二の罵倒に僕はすかさずツッコむ。

 あまりに自然に僕を陥れるようなことを言うから、危うくツッコミそびれるところだった。次からはもっとわかりやすく罵倒して欲しい。……いや罵倒はしてほしくないけど。

「いやぁでも親戚なら迎えに来ることも納得だねぁ。だってレンなんかがこんな綺麗な人と血縁関係なしに知り合えるわけないもんねー」

「お前もか。お前までも僕を罵倒するのか」

 何なんだ、カップル揃って僕を罵倒しないといけない義務でもあるのか。二人とは仲が良いと言った後だが、今すぐ絶交してやりたい気分だ。

「ふふふ、面白いお友達だね。漣くん」

「悪ふざけが過ぎるだけだよ。……それより行こ、姉さん」

 これ以上ここに留まると更なる罵倒が飛来してくるかもしれない。

 一速く車に避難しようと、僕は姉さんの腕を引いて車に乗り込む。

 その際、通り過ぎざまにいろんな生徒に見られたため、きっと明日登校した時クラスメイトに根掘り葉掘り追及されるのだろうと僕は覚悟した。


明日は2話投稿します。祝日なんで。

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