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「いやぁ、面白かったな。あの映画」

「うん、そうだね♪」

 四番スクリーンを後にしながら、浩二と雅は同じ感想を抱き共感しあっていた。

 当然僕が共感できることなどない。なんせ僕が抱いた感想は「千五百円を返せ」のみだ。

「——じゃあ、次は何処行くか」

 ついていけない話題を続けられるとハブられてしまいそうなので、話の腰を折り会話に参入する。

「まあ、特にすることもないし、そこらへんブラブラするでもいいんじゃねえの?」

 映画という目的は達成したが、かといって帰るには些か早い時間だ。ならば浩二の言う通りにブラブラ雑談でもしながら歩けばいいか。

「あっ、ちょっと待って。その前にお手洗い行ってもいいかな?」

「ああ、なら漣とそこの柱で待ってるぞ」

 浩二は近くにあった映画広告ポスターの貼られた柱を指さし雅に言うと、彼女は「おっけー」と頷きトイレへと向かった。

 僕と浩二は雅に伝えた通りに、柱にもたれ掛かって彼女を待つ。

「次どこ行く?」

 沈黙を埋めるように当たり障りのない質問をする。

「あー、デパートとか近くにあったっけ?」

「あったと思うよ。確かゲームセンターも近くにあったかな」

「ゲーセンか、そこもいいなー」

「買い物好きの雅がいるんだからどうせデパートに行くことになるよ。あいつの暴君並みの身勝手さの前には僕らの意見なんて効力を持たないよ」

「はは、違いねぇ」

「恋人の悪口否定しないのかよ。一応彼氏だろ」

 暴君並みの身勝手というフレーズに反発されると思っていたが、予想外にも共感された。

「そういうとこも含めて好きなんだよ」

 しかしただの惚気だったようだ。

「爆散しろ」

 とりあえず呪いの呪文を言っといた。

「爆散もしねえし別れもしねえよ」

「はいはい、ヨカタネ」

「……」

「……」

 唐突に、沈黙が場を制する。

 いつもなら浩二がもっとつっかかたり、惚気たりしてくるのだが、今日は特に返しがなかった。

 あの駄作映画の余韻にでも浸っているのだろうか。と、当てずっぽうでそんな推測を立ててみる。

「——なあ、漣」

「なんだ、浩二」

「……愛ってさ、なんだと思う」

「………………」

 当てずっぽうの推測だったが、意外とあたっていたかもしれない。

 悟りの本とか読んで座禅始める人並みに影響されやすい奴だったな、そういえば。

「……浩二。お前、本格的にキモイぞ」

「辛辣すぎだろ!?」

「優しさゆえだよ。映画に影響受けたからってその質問はどうかと思う」

「いや、結構マジな質問なんだって」

「マジで愛を語るとか、更にキモイぞ」

「その言葉本当に優しさ成分入ってるのか!?」

「入ってるよ。成分表にはちゃんと1%入ってるって明記されてるから」

「そんな隠し味程度にしか入っていないのは入っている内に入らねえよ!」

 ちなみに成分表にはキモイ60%、友達辞めよっかな39%、やさしさ1%と、細かく記載がある。

 友人に愛について語られるとか、新手の拷問かってくらいキツイ。

 何が悲しくて男二人で真剣に愛を語らねばいけないのだ。

「——んでよ、話の続きなんだが」

「話続けるのかよ」

「一昨日お前の「人生について談義」に付き合ってやったんだから、俺の話にだって付き合ってくれよ」

 二日前に僕が意味もなく「人生の在り方」について尋ねた時のアレか。まさか今その話を蒸し返されるとは思わなかった。

 しかし、そう言われると反論に困る。

 道理や義理人情で考えるなら、僕は浩二の痛々しいこの話題に付き合う責務がある。正直なところ僕は人情に篤い人間ではないし、人との約束事だって小さなものを含めれば百単位で破っているような男だ。今更そんなことを気にするような人格者ではないのだ。

 けど、まあ、一応親友の頼み事だ。多少嫌でも聞いてやるとしよう。

「わかった。——じゃあ話したまえ」

「なんで上からなんだよ……」

「一応僕は聞いてあげる立場だからね」

「性格悪……。まあいいや、じゃあ話すけど、——愛ってなんだと思う?」

「そういう前振りいいから本題に入ってくれる?」

「ホントに性格悪すぎだろお前! 悪い単刀直入の典型タイプだろ!」

 決め顔で聞いてくる浩二がウザくて、ついオブラートに包む発言を忘れてしまった。まあはなから包む気はなかったけど。

「はぁ……、わかったよ。……じゃあ本題から話すけど、今の俺と雅の関係ってどう思う?」

「恋人関係(仮)」

「ぐっ!?」

 膝をついて胸を抑える浩二。

 弱点(図星)に命中。浩二は10のダメージを受けた。

「な、なかなかにキツイ言葉だな……」

「だが的確だろ?」

「ああ、だからキツイ……」

「僕もまともな恋愛すらしてないのに愛を語る浩二がキツイと常々思ってる」

「愛を語ったのはついさっきなのにお前常々とか言いやがったなぁ!!」

「あ、やば、口が滑った」

「血も涙もないのかお前ッ!?」

「血も涙もあるからしっかりと現実を教えてやっているんだ」

 さっきも言ったが僕は優しさを持って浩二に接しているのだ。成分1%しかないけど。

「い、いや、真面目な話。俺と雅の関係って他のやつらから見てどう見えてんのかなって思ってさ」

 何故そのことについて気になりだしたのかは本人のみぞ知る話だ。

 だが、第三者からどう見られている、か。

 身近にいる僕からすればお子様カップルだが、二人の関係を抽象的にしか知らない人たちにとってはお似合いカップルなんだろう。美男美女カップルだし。

「浩二が気にするべきは、周りよりも自分たちのことだと思うかな。

「自分たち、か」

 恋人関係になるうえで周りの目っていうのも影響を及ぼすかもしれないが、当人同士というのがやはり一番の影響力を保持する。

『関係ないでしょ。コージのことは』

 昨日の雅の言葉を思い出す。

 ——浩二と雅の恋人関係は歪な形をしている。

 それに浩二は気づいていなくて、僕は気づいている。

 だって、歪めている一要因は僕だ。

「自分たちの恋人関係をちゃんと見た方がいいよ。ちゃんとアドバイスするなら、ね」

「見ろっつってもなァ……。見たところで改善しなきゃ意味ないだろ」

「へぇ~、一応現状を変えたいって気持ちはあるんだ」

「ま、まあな」

 小恥ずかしそうに浩二はポリポリ頬を掻きながら頷く。

 現状に甘えているのかと思ったら、意外とちゃんとした意欲はあったみたいだ。

「なあ漣。今の関係を変えるにはどうすればいいと思う?」

「逆に聞くけど、浩二はどうすればいいと思っているの」

「聞いてるのは一応俺なんだけど……。そ、そうだな……。——互いを尊重する、とか?」

「論外」

「ろッ! そ、そんなにダメかよ!」

「それでうまくいったら世の恋人たちは別れたりしないよ」

 誰かと付き合った経験があるわけでもない僕が言っても説得力は皆無だろうけど、それでうまくいくなんてとてもじゃないが思えないね。

小学生が習う人との話し方講座じゃあるまいし、そんな上っ面なことで恋人関係なんて長続きするはずない。

「ならどうしろってんだよ」

「まあ、そうだな。——逆をすればいいんだよ」

「逆?」

「ああ、尊重の逆。要は勝手するんだよ」

「……?」

 しっくりきていないって顔をしているな。

 確かにこんな抽象的なことを言われたって、キョトンとするのが普通だ。

「わかりやすく言えば、強引に行けってことだよ」

「強引にって、仰々しすぎやしないか」

「しないよ。今までの二人が控えめ過ぎるんだ」

「だとしても、強引ってどうなんだよ? 確かに恋愛のテクニック的なのじゃ聞かなくはない手段だけどよ、相手の気持ちも考えず無理矢理なんて——」

「雅のこと考えすぎなんだよ、浩二は」

 良い意味でも、悪い意味でもな。

「尊重したり肯定したりするのが悪いとは言わないけどさ、それだけじゃ絶対物足りないと思うんだ。尊重しかしてくれないなんて人と付き合ってる意味ないよ。尊重や肯定だけならAIにだって務まる。無機物に相手が務まるなら、はなから恋人なんていらない。そうでしょ?」

「……ま、まあ、確かに」

「時には相手の気持ちを捻じ曲げてでも引っ張ってみた方がいいんじゃない。浩二だって言ってたじゃないか、「身勝手なところも含めて好きだ」って。雅みたいな身勝手さや強引さ、それが浩二にないから今の関係が進展しないんじゃないかな」

「……」

 真剣な表情で浩二は考え込んでいた。僕の言葉を頭の中で反芻させているのだろうか。

 まあ、なんにせよ、浩二に少しは響いたようだ。

 僕はトンッと浩二の肩を叩いた。

「まっ、テキトーに応援してるよ」

「……ああ、サンキュ」


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