大嘘
寝取られモノが流行っているそうなので、逆転の発想をしてみました。
3話までは普通にラブコメです。
「なぁ、浩二。人は何のために生きてると思う?」
朝方の教室にて、友人同士で雑談を交わす生徒ら。
ただ自由気ままに話したいことを友人と語らうその場所。
窓際の後ろから二番目の席に座り、僕は唐突に親友の浩二に早朝に話すと胃もたれを引き起こしそうなほど重たい問いをする。
「なあこの動画見ろよ。ちょー面白いぜ」
「おい無視するな」
僕と対面して椅子に座り海外の面白動画をスマホで見せてくれる彼は、僕の友人の井岡 浩二。
運動神経抜群、ルックス良し、人当たり良し、と男にとって無敵の三拍子を兼ね備えている、なんとも憎たら--尊敬出来る奴だ。
「……はぁ、--また一体どういう風の吹き回しでそんなヘヴィー級な問いが飛んでくるんだ」
優しいことに浩二は無視を一貫せず、ちゃんと受け答えをする。
「話の種としてなんとなく植えてみた」
「いやぁこの動画おもしれーなー」
「おい」
無視された。もはや目すら合わせてくれなくなった。
完全にめんどくさいやつをあしらう時のそれだ。
いや確かに早朝からなんとなくで振るような話ではなかったけどさ……。
雑談なんて基本中身ペラッペラな話ばっかなんだから、たまには変わり種があってもいいと思っての僕なりの配慮なんだが、あえなく無下にされてしまった。
「まあいいから答えてみてよ。騙されたと思って」
でも振ってしまった以上今更引き返すことも出来ず、回答を迫る。
「早朝の雑談で一体俺は何を騙されなきゃいけねえんだ……。——えっとぉ、何のために生きる、だったか?」
乗り気じゃないながらもちゃんと答えようと、浩二は律義に考えている。やっぱなんだかんだ言って良い奴だ。
「んぅ~……。夢を叶える、とか?」
「…………つまんな」
想像以上に平凡な答えに思わず本音が漏れる。
「おぉい!? 真剣に答えてやって感想がそれかよ!!」
不当な扱いに不満爆発の浩二は声を荒げて僕を糾弾する。
いや確かに、僕も答えてもらった相手にこんなことをいうのは酷いと思う。少なくとも浩二相手じゃないなら絶対に言わない。
「でも、もうちょっとボケてくれてもよかったのに……」
「えっ、これボケるべき流れだったのか!?」
「そんなんじゃ予選敗退だぞ」
「何の予選だよ!? そしてなんで俺が責められてるんだよ!? 本当に騙されたわ!! 日常会話一つで陥れられたわ!!」
未だ冷めぬ怒りと、先程の発言の伏線回収に対する驚きで声は更に荒れる。
「ってか、そういう漣はどうなんだよ! それだけ言うならちゃんとお前の意見もあるんだろうな!」
「ん? 僕? 僕は楽しいことするため」
「お前も俺とどっこいどっこいな答えじゃねえか!! なんなら漣の答えの方がつまらないし薄いしざっくりし過ぎた答えだろ! よくそれで俺を責められたな!!」
ボロクソに言われてしまった。結構本気で思っていることなのに。まあ、僕も浩二の意見を「つまらない」と小馬鹿にしてしまったため、自業自得ではある。
——けど、我ながら僕の答えはなかなかに正解に近いものだと思う。
道徳の授業みたいな問いかけに対して正解も何もない気はするが、僕と同意見という日とは少なくないはずだ。
だって、人生は楽しければそれでいいものだ。
その瞬間その瞬間の楽しいひと時が延々繰り返され続ける人生ほど、良い人生はないだろう。
友情を育むのも恋愛をするのも会話をするのもお金を稼ぐのも、結局は人生をより豊かに、——つまりより楽しくするための行為だ。
楽しむことこそ、人生の本懐。少なくとも、僕はそう思っている。
「おっ、なんか楽しそー。何やってんの?」
僕と浩二が仲良く(?)談笑していると、そこに一人の女子生徒が入ってくる。
僕と浩二の中学時代からの友人である、晴家 雅だ。
肩まで伸びた明るい茶髪に、端正な顔立ち、高校生にしては発育の良い体つきなど。容姿端麗と言って差し支えない存在だ。
人懐っこく、いつもニコニコしている彼女は周囲からの評判もよく、浩二に並ぶほどの人気者である。特に、異性からの人気は絶大だ。
まあ、人気はあるが彼女に告白してくるような輩はいない。
だって、不毛だからね。
「人生の在り方について語ってる」
雅の問いかけに対して、浩二が簡潔に答える。
「深っ!? あ、朝にするような話じゃないねー」
改めて聞くと確かにそうだな。提案した僕が思うことでもないけど。
「ちなみになんだけど、雅は人生って何のために生きてると思う?」
参考までに僕は尋ねる。深い意図は全くなく、ただ流れ的になんとなく聞いてみただけだ。
「んっとぉ、……おいしい物を食べる、みたいな感じかな?」
「おいしい物って……」
「雅ってそんな食いしん坊キャラだったか?」
「いいじゃんおいしいの食べるの! 三大欲求の一つだし」
「まあ、浩二のよりは面白いかな」
「コージの? へぇ~、どんな答えなの?」
「俺は夢を叶える」
「えぇ~、普通過ぎてつまんなぁい……」
「雅もかっ! 雅もそう言うのか! それ言ったらコイツだって楽しいことをする、だぞッ!」
「夢よりはレンの方が面白いと思うけどなぁ」
「だよな」
「なんでや!?!?」
和気藹々とは見方によっては違うかもしれないが、僕ら三人はそれなりに楽しいひと時を送っていた。
ごくありふれた、友人らの会話。
いや、正確には違うか。
言っとくが、友人ではなく親友、なんて寒いことを言うつもりはないから。
ただ友情関係なのは僕と浩二であって、浩二と雅の関係性においては違う。
男女の関係性で、親しく、友情ではない、ときたら選択肢は一つしかあるまい。
雅と浩二は付き合っている。
付き合う。つまり男女交際をしている。
僕と浩二は彼女と中学時代からの友人関係だと言ったが、正確に言えば浩二は中学時代までの友人関係である。
高校に入ってすぐの事だったが、僕としてはさほど驚くほどの事でもなかった。
中学時代から僕を含めよく三人で遊んでいた仲だったし、傍から見ても雅と浩二はお似合いな二人組だ。
それは中学時代からの付き合いである僕だけではなく、高校から二人を知り始めた生徒らもそう思っている。
だから、雅に告白するのは不毛だと言ったのだ。
二人はクラス公認どころか学校公認レベルで知れ渡っている有名カップルなのだ。
美男美女のカップリングに割り込もうなんて言う無粋な奴はいない。
第一、彼らの間に第三者が入り込む余地はない。
なんせ一年半も交際が続いている。
……正直なところ二人の交際に対してあまりいい気持ちにはなれないな。
だって僕は彼女いない歴=年齢の非モテ野郎だ。いくら自分より優れた人間だとわかっていても、友人に先を越されたようで気に食わんのだ。リア充爆発しろ。
卑しい僻みだと笑ってくれて構わない。
だがこれが僕の本音。……でも、それと同等、いや、何ならそれ以上に、二人の関係が続いてくれればいいとも本音で思っている。
人間汚い面ばかりじゃない。彼女持ちの友人を僻む僕にだって、素直に二人を祝福してやりたいという気持ちがあるのだ。
僕は陰ながら彼らの恋人関係を応援してやるとしよう。
だって僕は、浩二と雅の友人なのだから。
ブックマークや評価して頂けたら頑張れる系の人間です。