2、受付嬢の怒り
ソウは懐かしさを感じながら、喧騒としている通りを抜け、一棟の小さなビルの前で立ち止まり、そして慣れた様子でビルの中に入った。
入ると、右側には小さなカフェスペースがあり数人の男女が話し合っている、そして、左側には掲示板に貼られた依頼書があり、朝の時間帯なら混雑しているであろうスペースだったが、今が夕方ということもあり、辺りは閑散としていた。
ソウはチラッと辺りを見回すと、中央スペースにある受付所と書かれた場所に向かう。
受付所は五カ所あるのだが、依頼を終えた冒険者が列をつくっていたためかなり混雑していた。
ソウは何処の場所が一番人が少なそうか考えていると、受付所で受付をしていた女性がソウに気付き、手をあげた。
そして、その女性はソウにここに並べとジェスチャーをし、それに気付いたソウはおとなしくそこに並ぶことにした。
ただ、その列は他の受付所より明らかに長い。
強面の男が受付をしている所に並べば、もう順番がきていただろうと考えソウはげんなりとした。
ソウが今からでもあの列に並ぼうかと考えていると、受付の女性が睨んできた。
(顔が整っているだけに恐い……)
なんなら強面の男よりも迫力があるんじゃないかとそんな失礼なことを考えているうちも、女性はてきぱきと受付業務をこなしていく。
少しの時間待っていると、やっとソウの番がきた。
「次のお客さまどうぞ〜。ってソウか……ソウよね。あなたには言いたいことが山程あるわ………でもまずは、随分、久しぶりねえ。一年ぶりぐらいかしら。元気だった?何処にいたの?何で一年もの間、会いに来なかったのよ。ねえ……?」
受付嬢ははじめ、にこやかに話していたが、段々表情が曇っていき、最後にはまるで恐喝しているような、そんなトーンで言った。
「……師匠に連れられて、長い間、ダンジョンを転々としてたんですよ。本当に急に言われて。だから、長い間、連絡もできず、本当にすみません。今、支部長からの依頼であるA級のダンジョンを攻略してきました。では、支部長が呼んでいますので、支部長室に行ってきます」
ソウは早口で、そう言うと早足で女性から逃げようとする。
女性からのただならぬ怒りを感じたからだ。
だが女性は危険を察知したソウに向かって腕を突き出し、グイッと首根っこを掴んでしまう。
並んでいた、冒険者達はその光景をギョッとしたような目で見つめていたが、女性の般若のような形相を見て一斉に目を逸らした。
「まだ、言いたいこと言い終わっていないわよ。何処に行こうっていうのかしら。じゃあ質問でもしましょうか。あなたB級の冒険者よね。その年齢でB級というのも素晴らしいことだけれど、A級のダンジョンの攻略依頼は受けれないんじゃないの?」
「……僕A級になりました。」
ソウが発したA級という言葉に、後ろの列にいた冒険者がビクっと反応し、小さな声で「この男が、Aランク?おいおい、嘘だろ……」と呟いたのが、二人の耳にも聞こえてきたが、レイカは気にせず話を続ける。
「……あ〜、そうなの。それは素晴らしいことだわ。でも、ショックねえ。息子のように可愛がっていた子がA級になっていたというのに、報告もなく、連絡もなく、だもんねえ。お祝いもできなくて哀しいわ。ほんとに凄いことなのよ。ねえ」
「……」
ソウもその件に関しては、本当に申し訳なく思っている為、何も言えず、押し黙る。
「……まあそれはいいわ。じゃあ、今回のA級ダンジョンの依頼は誰と一緒に受けたのかしら。確か規約では挑戦するダンジョンが同ランクの場合、パーティーもしくはクランでの攻略が義務づけられていたはずだけど」
「……一人で、一人で攻略しました。すいません。規約忘れてて。後レイカさん首がそろそろやばいです。」
ソウはレイカの腕をタップし、離してもらうようにお願いするが、レイカはますますソウの首を力強く締めていく。
「忘れてた?……忘れたで済む問題ですかっ!冒険者を守るためにこの規定があるのよ。あなた下手したら死んでいたわよ。命を何だと思っているの!冒険者はこれだから駄目なのよ。無頓着で、大雑把。あのダンジョンで何人死んだか知っているの?何で緊急ダンジョンに指定されたと思っているの。」
「……」
「ねえ?さっきから何で何も言わないの。何も言わなかったらこのまま終わると思っているの?答えなさい。ねえ」
「……」
その時、ソウの後ろにいた冒険者がおそるおそるレイカの前に出てきた。
「あの、レイカさん。さっきからその冒険者気絶してます。泡吹いてて、ちょっとその冒険者まずいかも」
そう言われたレイカが回り込んでソウの顔を見てみると、確かに泡を吹いて気絶している。
レイカが慌ててソウが、息をしているか確認してみると息をしていなかった。
「すいません。誰か治癒の魔術を使える方いませんかー!」
その日、冒険者協会にそんな叫びが木霊していたという。