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嘘とエイプリルフールと柿の種「私立探偵 ハマショウ」

作者: ヨッシー@
掲載日:2021/05/04

嘘とエープリルフールと柿の種      

「私立探偵ハマショウ」


4月1日、曇り。

世間はエープリルフール、エープリルフールと大騒ぎだ。

ペンギンが空を飛んだ、宇宙人と大統領が会ったなど…

関係のない俺の回りには、何の変哲もない。

金魚に餌をやり、柿の種を食べ、エスプレッソを飲む。

いつもの一日だ。

あの二人が…来るまでは…

俺の名前は濱田翔一。この街でちっぽけな探偵事務所をやっている。

とある事件を追って、この街に住み着いた。

不思議な事が多い、この街へ。


カチャカチャ、

パズルを一生懸命に解いている濱田。

カチャカチャ、

バン!

パズルを机に放り投げる。

「もーやめた、やってられねーぜ」

「疲れた!」

ドカ、足を机の上に乗せる濱田。

コンコン、

「翔〜、お前んちに客だぞ〜」でかい声が廊下に響く。

「何っ、」

ガタッ、椅子から転げ落ちる濱田。

「いててて」見上げる、

そこには、大家の平山さんに連れられた幼い子供たちが立っていた。

「何だ、ガキか」

スーツの埃を払う濱田。

「ガキの相手はしない主義だから」

バイバイ、手で払う格好をする濱田。

「まーまー、可愛いお客様じゃないか〜濱ちゃん」

「俺はな、ガキが大っ嫌いなんだよ。ワガママだし、うるさいし、金も持って無いし、」

千円札を差し出す子供。

「僕たちのママを探して下さい」

くたびれた服の二人は、小さな声で叫んだ。

テーブル、

エスプレッソと柿の種を子供たちに出す濱田。

二人は兄弟らしい。

名前は、剛志と強志。

また、強そうな名前だ。

一か月ぐらい前、この子供たちの母親が、

「買い物に行く」と出かけたきり行方不明らしい。

親戚も頼れず、援助も無く、生活費も底をつき…

なくなく、ここへ来たそうだ。

「ガキにしちゃ、痩せている」第一印象だった。

千円では到底動かない俺だが、この子供たちの消えそうな姿と霞んだ目が忘れられず、引き受けてしまった…

…また、金にならない仕事、

つくづく自分に愛想が尽きる。

俺は机の上のパズルを子供たちに渡した。

「ママが帰って来るまで、そのパズルを完成させとけよ!」

子供たちを大家の平山さんに託し、俺は捜査を始めた。

この手の調査は簡単だ。いくら蒸発したといっても、必ず誰かしらに連絡をとっているのが世に常だ。

手っ取り早いのは、ヤクザ風になりきって脅す!これに尽きる。

この前も逃げた外国人を一週間で見つけた。

「おい〜ここで働いてた〜沙都美は〜どうした〜」

子供たちの母親が勤めていたキャバクラ白猫で、俺は、演技を始めた。

「お前らの〜実家や〜兄弟〜親戚まで〜聞きに行くからな〜」

「覚悟しろよ〜」

怯えてる…俺の演技は劇団仕込みだからな、真に迫るぜ。

まぶたの下げ具合、肩の揺らし方、セリフの発音。我ながら素晴らしい演技だ。

「新潟…」白いドレスの女が小声ではいた。

沙都美は、新潟の温泉旅館に住み込みで中居兼コンパニオンをしているらしい。

キャバクラの皆様にお礼の柿の種を渡し、

俺は新潟に飛んだ。もちろん、旅費は平山さん持ちだ。(笑)

四月の新潟は、まだ寒い。

「ちょっと薄着だったな〜」スーツの襟をたてる濱田。

震える手で俺は、沙都美のスマホにウイルス入りのSMSを送った。位置情報から旅館を見つけるのだ。

何でそんな事、出来るのかって?

蛇の道は蛇って事だ。自慢じゃないが前職で散々やっていた。

見つけた。

「旅館白雲」また白だ。

電話、

「すいません〜沙都美さんの従兄弟の嫁の親戚の兄弟の近所の他人の濱田ですけど〜」

聞き込みによると、沙都美は男と近くの寮に住んでいるらしい。

「上白石沙都美」長い名前だ。また白。

ピンポーン、

「…」

ピンポーン、

「…」

ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、

「うるせえな、何だよ!」男の声。

「ビーバーイーツですか、ラーメンお届けに参りました〜」

「頼んでねーよ」

チンピラ風の男が出て来た。

「はい、激辛カップメン!」

大量の激辛カップメンを男に渡す濱田。

「誰?」

奥から、気だるそうに女が出て来た。


沙都美の部屋

タバコに火を着ける沙都美。安っぽい白ドレスが煙で霞む。

「探偵なの、」

濱田の名刺を、珍しそうに見る沙都美。

「父に頼まれたの?」

「いや…」

「ガキに…」

「もしかして、あの子たちに頼まれたの?」

「アハハハ、探偵って暇なのね〜」

ムッとする濱田。

「まぁいいや、」

タバコを再び吸う沙都美。

「何故、帰らない?」

「捨てたのよ、」

「…」

「いらないのよ、」

「…」


部屋の外

男が激辛カップメンにお湯を注いでいる。

「あちっ」


沙都美の部屋

「探偵さん、大学でてる?」

「ええ、三流ですけど(笑)」

「私、これでも慶應でてるのよ、」

「すごいですね」

「しかも、幼稚舎からよ、」

「それは、お金持ちで」

だからどうした(心の声)

「大学までは、楽しかったわ〜」

「六本木で遊んだり、ハワイ行ったり、勉強もしたわよ、文学部だけどね」

「あいつと出会うまでは…」

顔つきが変わる。

「バカだったのよ、」

タバコの灰を落とす。

「売れないバンドやっててさ、バイトのホストだったわ、あの人….」

「…夢を語られて、」

窓の外を眺める。


部屋の外

さっきの男が激辛カップメンを食べている。

「めちゃくちゃ辛〜」

「でも、美味〜」

「クセになりそう〜」


沙都美の部屋

「素敵だなと思っちゃったのよ、」

「そしたら、子供出来ちゃって…」

「家族には反対されたわ、」

「そんな男の子は下ろせと、」

「嫌だった、初めての父への反抗だった」

「捕まえられそうになって、駆け落ちして…地方の病院でこっそり産んだわ、」

「うれしかった、彼との子供、愛の結晶…

しかし、バンドは売れなかった」

「私は、スーパーでバイトして生活を支えたわ、必死だった。でも幸せだった」

「そして、もう一人子供ができて…」

「あの人もバンド辞めて働くって、」

「私たちは、小さな幸せで満足だった…」

「数年後、父の秘書が訪ねて来たの」

「兄が議員に立つから完全に縁切りしてくれって、」

「こんな妹、文春の格好のエサだわよね」苦笑い。

「ハンコを押したわ、1000万円の手切り金…欲しかった、子供のためにも欲しかった」

「でもね、彼は、もう腐っていたの。そのお金持って逃げて行ったわ。子供と私を捨てて…」

「もう、落ちるところまで落ちたわ」

「キャバクラ、デリヘル、ソープ、」

「子供のために、子供のために…」

「でもね、もうダメ」

「死んじゃうの、私の心が死んじゃうの、」

「あの子が生まれなければ、」

「父の言う通り中絶していれば、」

「小ちゃな幸せ夢見て、下の子を産まなければ…」

「…」

「勘当もされなかった…」

「私は、どこかの御曹司と結婚して、セレブ生活だったわ、」

「みんな、あの子たちが悪いの」

タバコを消す。

「…もしかして、あんた、ガキたちにそう言ったのか?」

「言ったわよ、」

「お前らのおかげで私の人生めちゃくちゃだって」声を荒げて髪を振り乱す沙都美。

「…あの子らは、謝ったわ」

「生まれ来てゴメンなさい、と」

「しかし、まだ未練があるんだ…こんな母親でも」

「放り投げれば、父が面倒見てくれると思ったのに、残念」

「父も冷たいね、」

「……」

「あんた、最低だな」

「人間じゃないな、」

「そうよ、最低よ」

「最低まで落ちると、もう、人間じゃないのよ」

「帰って、」

「今の彼は、バカだけど優しいの。薬も沢山くれるし…」腕に注射の痕。

濱田は、立ち上がった。

「話すことは、もう無い」胸ポケットから書類を出す。

「施設への署名とハンコをだけ押してくれ」

「解ったわよ、」

ハンコを放り投げる沙都美。

「沙都美〜まだかよ〜」彼氏の声がする。


部屋の外

待ちくたびれた格好の男。

「君か、激辛カップメン10個万引きしたのは?」

警察官が、立っている。

男の腕の注射痕が見える。

「やべっ」


探偵事務所

お土産をたくさん持ってやって来る濱田。

ガチャ、

「待たせたな、」

「ほら、新潟お土産、元祖柿の種。でかいぞ!」

黙っている二人。

柿の種の袋を開けて食べ始める濱田。

「お前らのママは、モグモグ、お勤めがあるから、モグモグ、まだ帰れないんだってよ。モグモグ…とりあえず、モグモグ、施設へ行けよ、モグモグ」

「書類用意したからさ、モグモグ」

「やっぱり、」

剛志が口を開いた。

「僕らは、生まれて来なけりゃよかったんだ」

ギクッとする濱田。

「それは…」

「そ、そのパズル、できたか?」

パズルを見る剛志。

「そのパズルが出来たら、ママは帰って来るってよ」

「本当?」

「ああ、そう言ってた」

「俺は、ウソはつかない」

「やったー」喜ぶ強志 。

無言の剛志。


その後、兄弟は施設に入った。

たまに、見に行くと楽しそうな顔の強志がいた。

よかった。

しかし、剛志はその片隅でパズルをやっている。必死な顔。

「…」

柿の種を施設の門の前に、そっと置く濱田。


俺は知っている…

そのパズルは決して解けないことを…

…何しろ、俺が作った物だからな。


彼が大人になったら解るだろう。

大人はズルイって…

エープリルフールじゃなくても、嘘をつくってことを、


この街は、不思議なことが多い…

だから俺は、

ここに来た。




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