断じて許さぬボランティア活動
能力が思うように発揮できない状態は不意に解除された。いったい何だったんだ。
まさか邪魔をしようなどということはないはずだ。たぶんだが俺をサポートしようとして、失敗したのだろう。
キョウカの奴はともかく、シノブがふざけた真似をするとは思えない。
試してみるのはいいことだと言った手前、責めるのはお門違いだからな。大目に見てやろう。
能力が上手く発揮できない酷い違和感に慣れないうちに、ヘビの雷撃はうんざりするほど食らってしまった。もうどうでもいいと思えるほどに。
慣れ親しんだ感覚に戻ると再び殴りつけ、少しずつ渓谷に誘導しようと試みるが、距離が遠く果てしない。かなり面倒だ。
まあほかに手はない。無心でやっていこう。
ところがだ。いくらも経たないうちに、また違和感に襲われた。
今度はおかしいほど勝手に出力が上がる。慣れない体の動きに頭が付いていかない。
歯を食いしばって想定以上の速度に耐え、ヘビを殴ろうとしていた拳がまともに当たらず、僅かにかすめるにとどまった。
またシノブの奴、余計な真似をと思ったが、かすっただけの拳が硬い鱗を弾き飛ばした。
「なにっ!?」
よく分からんが、かなりパワーアップしているらしい。
おお、これならイケるか!
ナイスサポートだと思った直後、またもや想定外な事態に。
時間的には余裕があったはずの拳闘無比の能力が強制インターバルに移行した。この感覚は時間切れの時のものだ。
そのまま体感で一分が経過し、能力の再行使が可能に。これももう感覚で分かる。
スイッチを入れてヘビに肉薄すると、また不自然にブーストされた感じがきた。
高められる力に身を任せて、より引き伸ばされたスローモーションの世界で拳を穿つ。
鉄の盾のような鱗を突き破り、硬い筋肉をえぐった。
こいつはイケる!
拳を引き抜き、ラッシュで決めてやろうと思った直後にまた強制インターバルに追い込まれた。
ちっ、なんだってんだ。
さっきの感じ。スローモーションの世界にいた俺だからこそ体感時間はそこそこあったが、実際には一秒あるかないかくらい短い時間だ。
能力の上昇と引き換えに、効果時間が短くなったと考えるしかないだろう。もしかしたら能力が薄まった時には、逆に三分以上の行使が可能だったのかもしれない。
仕方なく拳闘無比がない普通の状態でヘビの誘導を再開した。
だがあれは、一撃に全てを掛ける場合には使えるな……。
強制インターバルの一分が経過する少し前、ちょっとしたことを思いついた。
鱗を破れる火力があるなら、勝ち目があるかもしれない。外側が突破できるなら、内臓破壊の可能性が見えてくる。
例えば頭を殴った場合には頭蓋骨が硬すぎて、脳の破壊までは無理かもしれない。
だったら心臓はどうだ。
魔物だって生きている以上は心臓くらいあるだろう。ヘビの割かし細い体形ならば狙いやすい気はする。
問題は長い体躯のどこに心臓があるかだが……。
逐電亡匿の意識をヘビだけに向ける。
詳細に探ってやれ。やろうと思えばかなり事細かに探れる能力だ。ひょっとしたら魔物の体内構造すら看破できるかもしれない。
「……これか、あった!」
適当に辺りを付けた場所を探ってみれば、簡単に見つかった。
巨体に相応しい大きな内臓が、長細い体の中に押し込められているかのようだ。ドクドクと脈動する臓器は間違えようがない。
「シノブ、やれ!」
インターバルが切れると同時に叫んだ。
声が聞こえたかのかどうかは不明だが、スイッチを入れた途端に激しいブーストが掛かった強化状態になった。
三度目ともなれば多少は慣れる。
いつもより数段上のスローモーションの世界。
鋼よりも強靭な拳は鉄の鱗を易々と突き破り、心臓を破壊した。
一撃で破裂させたと確信できる。
即座に訪れる強制インターバルにも、もう驚いたりはしない。
さすがはヘビの魔物と言うべきか、心臓を失ってもヘビはしばらく暴れ続けた。凄まじい生命力だ。
最後っ屁のように体をくねらせながら森を荒らし、雷撃の雨を降らせまくった。
自分を殺した俺が恨めしいのか、ひたすらこっちに追いすがろうとするのはむしろ助かった。キョウカとシノブを巻き込まずに済む。
避けることができない雷撃を何度も受けながら、ヘビが弱っていくのを見守る。
途中、ヘビがなにか能力を使おうとした気配はあったが、心臓が破壊された状態では無理だったのか、結局は不発に終わった。もしかしたら魔物にとっての切り札だったのかもな。使われる前に倒せたのは良かったかもしれない。
そうして、巨大な第一種指定災害はようやく動かなくなった。
戦いの跡は悲惨なものだ。大きな災害が起こったかのように、ここら一帯にあったはずの背の高い樹々が無くなってしまった。森が荒れるどころではない被害だ。
雷撃によって森林火災が発生していないのが不思議なほど。ぶすぶすと火が燻ぶっているような感じはあるが、肝心の燃える物がもう無い状態なのだろう。
シーズンオフとはいえ、ここは観光地へと続く一本道だからな。どういった影響があるのか。まあ俺が気にする事ではないか。
とにかく、王国への報告はしておかなければ。
死骸の処理は必要だし、有用な資源でもあるに違いない。第一種指定災害の魔物だから、素材としても貴重なはずだ。むろん素材の所有権は俺にある。特別に売ってやってもいいがな。
あとは魔物討伐の依頼を受けたわけではないが、事後であれ、これは報酬を貰わないとならない。
俺は契約によって金銭を対価に魔物を討伐する勇者だ。タダ働きは許さん。




