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召喚の目的

 ゴブリンとの戦闘があった翌日、勇者たちには完全休養が言い渡された。

 俺は元々療養中だったはずだが、今回の件で完全にそれは解かれるだろう。

 休養日といっても特にやることはないから、いつものようにゆっくりとした時間を満喫する。そこに初めての訪問者があった。


「勇者殿、今日は俺も非番でな。一杯どうだ?」

「まさか酒か!? そいつはありがてぇ!」


 実は療養中は酒を禁止されていたのもあって、飲むのは久しぶりだ。

 まさか療養中に部屋で飲んだくれているわけにもいかないだろうから、当然といえば当然だが。

 とにかく、嬉しい申し出にテンションも上がる。まだ日の高いうちから飲む酒は最高だ。


「ほう、刑死者の勇者殿はいける口か。他の勇者殿はほとんどが飲めんと言っていたからな。飲ませた勇者殿も飲み慣れているようには見えなかったから、一緒のペースでは飲めなくて少々物足りなく思っていたのだ」

「奴らは元の世界じゃ、まだ子供の年だからな。ワルでもなけりゃ、酒は大して飲めんだろうさ。飲めたところで、あんたほど強くはないだろうしな」

「そうなのか。子供か、どうりで図体の割には幼い感じがするわけだな」


 世界が違えば常識も違うからな。それはしょうがあるまいよ。

 注がれたグラスに口をつけると、思わず声が漏れた。


「……ああ、うめぇなぁ」


 独特な香りがしたが悪くはない。それに痺れるようにして染みていく感覚がたまらん。

 度数の高いウィスキーのような酒で、割るものもなかったが、二人で舐めるように少しずつ減らしていく。


 副団長はすでに他の勇者から俺たちの世界のことを事細かに聞いていたらしいが、改めて俺の口からも聞きたがった。

 ついうっかり、自分の悲惨な人生を語りそうなるのを懸命にこらえて、一応は大人目線での世界を語ったつもりだ。ちゃんと勉強している高校生よりも大したことは知らないだろうがな。


 俺も役人から細かな聴取は受けているが、こうして砕けた雰囲気のなかで話すのは初めてのことだ。

 こっちからも色々なことを聞いたが、所詮は酔っ払い同士の会話だ。覚えていないことも多いし、どうせしょうもない話がほとんどだろう。



 休養日が明けると、俺以外の勇者は遠征に出かけていく。

 なんでも、前回の戦闘のあまりの体たらくに報告を受けた騎士団長閣下が、自ら勇者どもを率いて強化合宿を行うらしい。


 世界の命運を握る勇者が情けなくては、救われるものも救われない。

 また、救わない限り俺たち勇者は元の世界に帰れないらしい。

 どういう理屈か分からんし、証明する手段もない。そもそも召喚されたことからして意味不明なのだから、帰り方が意味不明なのも頷けるだろう。


 ただ、俺は全く信じていない。

 世界を救えば帰れるだって? ホントかよ、胡散くせぇ。


 そもそも世界を救うとは、いったい何なのか。どうすれば世界を救ったことになるのか。

 意外なことに条件自体は明らかで単純だ。聞いた話が本当ならばだが。


 それは世界のどこかにいる、魔神を殺すこと。魔神を放置すると、世界には魔神の眷属が溢れ返り、世界はやがてそいつらに滅ぼされてしまうのだとか。

 正気を疑うような話だが、この世界の奴らは本気だ。


 いつ、その魔神が現れたのかは、大陸の南にある大神殿の巫女がお告げで語るらしい。それだけが根拠とか、俺からしてみれば有り得ない話だが、どうやらそういうものらしいし、文句を言ってもどうにもならん。

 しかも厄介なことに、魔神は複数いるんだとか。具体的な数も分からなければ、それぞれがどこにいるのかさえ不明ときた。

 いくらなんでもハードルが高すぎやしないか。


 ちなみに世に蔓延る魔物は、その魔神とやらとは直接的な関係はないらしい。

 魔神がいようがいなかろうが常に世界中にいて、素材として人間に益をもたらす面もある。

 魔物に魔神。面倒だし、とことんバカバカしいが、付き合うしかこの世界で生きていく術はないのだろう。


 皆が合宿に行くなか、俺だけが留守番なのは、他の勇者と同じ訓練を受ける意味がないからだ。副団長がそう強く主張して、俺には別の訓練が課されるらしい。

 それはそれで面倒だが、やるしかないのだろうな。

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