若き勇者たちの明暗【Others Side】
魔物との初めての実戦は、若き勇者たちに強い影響を及ぼしていました。
極端なところでは、力に酔いしれる者と戦闘や殺害への強い忌避感を覚える者たちとに分かれます。
事前の訓練の過程では、増大した腕力や速度に反射神経、ありとあらゆる能力が向上していることに対して、単純に面白がったり喜んだりしていた若者たちでしたが、魔物とはいえ殺害が前提となる戦闘を経験してからは、良きにしろ悪しきにしろ強烈な影響が表立って現れました。
一日の終わりには、自然と勇者たちは集まって、その日の出来事を話し合います。
知り得た情報の交換という名目でしたが、実際には単なる雑談がメインとなります。人によっては心細さを紛らわすためでもあります。
「あの魔物、気持ち悪すぎるだろ。あんなのとこれからも戦っていかなきゃいけないのかよ? 正直さ、怖すぎるぜ」
「俺もだ。剣で切り裂く感触がまだ残ってやがる。あんなのとこれから何回も戦うんだろ? 勘弁して欲しいな」
調子の良さそうな少年と優しそうな少年が弱音を吐く一方、強気な者もまた存在します。
「けっ、情けねぇな。てめぇら、それでもタマ付いてんのかよ」
「お前らそんなことよりよ、俺らのこの凄ぇ力をなんとも思わねぇのかよ。真っ二つだぜ、真っ二つ!」
元気の余っていそうな少年たちは、自らの戦果を誇るべく早くも武勇伝のように活躍を語ってみせます。
どちらも自然な感情で、性格によってどちらが強く現れるかの違いにすぎません。
もっとも、強い否定の感情を持った者は大変です。
「あたしはあんなの二度とゴメンよ。魔物は気持ち悪いし、なんであたしがこんなコトしなきゃいけないわけ?」
「わ、私も、む、無理……」
普段ならまったく気の合いそうにない見た目の、ギャルっぽい女子高生と陰気な女子高生とが同調します。
「なんかさ、あたしら体良く利用されてない? どうも信用できないのよね」
こちらもまた自然な感情でしょう。いくら強い力があったとしても、それを振るうことができるかどうかは別の話です。誰もが戦いに肯定的なわけではありません。
むしろ言葉に出して不満を表に出せるだけまだ状態はいいです。俯いて黙ったままの者もいるのですから。
「やりたくない人はやらなくても良いのではないかしら? 無理が祟れば良い結果には結びつかないわ。勇者の力があっても命がけなのですからね」
「力があるのなら使うべきよ。この状況で我侭が許されるとでも?」
「その通りだ。ボクたちはボクたち自身のためにも、勇者の務めを果たすべきだ。そこに議論の余地などない」
お嬢様然とした女子高生が突き放すように言いながらも戦いたくない者を擁護すれば、すぐに真面目そうな委員長然とした女子高生と男子高生が反論します。
「あたしは嫌よ。戦いなんてメンドくさい。勇者の男はみんなガキっぽいし、どうせならいい男と一緒にいたいわ」
「私はもっとこの世界の研究をしたいです。魔物にも興味はありますが、戦いに明け暮れるのは御免被ります」
周りの空気をものともせず、ロリっぽい美少女が妙にませたこと言い出せば、研究者のようなことを言い出す身勝手な少女まで出始めます。
厳しい意見もありますし、自由すぎる意見もあります。良くも悪くも、若者らしいといえるかもしれません。
「休みが明けたらまた訓練だぞ? 今度は遠征に出るみたいだし、そんなことでどうするんだよ。やっていけないぞ」
「それって強制? 行きたくないな」
「うげ。遠征ってまた馬車で移動だろ? 魔物も嫌だけど、あれもキツイぜ」
若き勇者たちがどれほど優れた素質を持っていようとも、何事にもまだまだ不慣れな初心者です。
訓練に訓練を重ねて、やっと勇者らしい力を発揮できるようになります。肉体的にも精神的にも、彼らはまだまだ未熟であるのですから。
彼らの無軌道な会話は遅くまで続けられました。
適当なグループを作ったり、割り込んだりしながら雑談をするものですから、話があちこちに飛んでまとまりがありません。
個人個人で意見が違うのは結構なことですが、実のある話になっているとはいえないでしょう。
普段はまとめ役を自認している大学生の男も、初めての戦闘後ということもあって、浮ついた気持ちであることは否めません。
結局、この日はまとめ役が話をまとめようとすることもなく、好き勝手に雑談をして一日が終わりました。