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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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押し込み強盗【Others Side】

 地域一帯の盟主であるバルディア王国、その華やかなりし王都。

 そこは夜間においても繁華街であれば、かなりの賑わいを見せるさながら不夜城のような街並みです。

 地元の住民のみならず、観光客まで含めた酔客で明け方まで喧騒が止むことはありません。


 そんな喧騒からは遠く離れた住宅街の一角。

 ある空き家には、怪しい風体の男たちが集まっていました。全員が目立たない地味な格好に、目出し帽まで被って顔を隠しています。


「もう一度おさらいだ。大門さんには正面から陽動を仕掛けてもらう。その隙を突いて俺たちは裏口から突入だ。まずは金を探せ。全員でやればすぐに見つかるはずだ。金を奪った後はバラバラに逃げて合流地点で集合する。大門さんも適当なところで引き上げてください」


 怪しい風体の男たちは、刑死者の勇者とワッシュバーン組系コロンバス会の構成員でした。彼らはこれから一緒に、悪徳商人が蓄えた金を奪おうとしています。


「おう。派手に暴れて、なるべく多く引き受けてやる。だが全部を集めるのは無理だろうな。残ったのはお前らでなんとかしろよ」

「そっちは何とかしますよ。あんたには一番ヤバイところを頼むんだ。そのくらいはやらないと、アンドリューさんに殺されますよ」


 彼らが押し入りをする悪徳商人のアジトは、少し広めの一般住宅といった趣の普通の家です。

 しかし暗がりの中でも随所に立つ見張りや、庭を巡回している重装備の男たちを見れば、そこが一般の家庭でなどあるはずがないと分かります。


「そういや、傭兵はいいとしてだ。商人のほうはどうする? 表に出てくるとは思えねぇが、もし見掛けたら捕まえるか?」

「いや、奴はここにはいません。奴は毎日、朝まで社交場に行っているんで。ついでに言えば傭兵団のリーダー格はその護衛で不在のはずです」

「そうか、じゃあ楽なもんだな。タイミングは任せる。もう始めるか?」

「やりますか。じゃあ手筈どおりに」



 悪徳商人のアジトに近い空き家から、刑死者の勇者である大門トオルは一人で出て行きました。

 黒尽くめの格好に目出し帽のスタイルは、いかにも怪しく、これが深夜でなければ否応なく目立ち、場合によっては騒ぎになっていたでしょう。

 特に身を隠すようなことはせずとも闇夜に紛れてしまうため、堂々と目的地に向かって足を進めます。

 程なく到着すると、何の躊躇もなく正門を押し開いて進入を果たしました。


「誰だ! おい、止まれ!」

「覆面だと!? なんだこいつ!」

「殺すなよ、捕らえて誰の差し金が吐かせるんだ!」


 誰何の声を無視して侵入する不審者に対して、傭兵団は即座に敵と見做して攻撃を開始します。

 囮役である刑死者の勇者は、なるべく多くの敵を十分な時間に渡って引き付けなければなりません。

 正門付近の傭兵をすぐに倒してしまっては、増援を呼ばせることができないため、攻撃は加減をしながら立ち回る必要がありました。彼は半ばおちょくるようにしながら、玄関に向かって進んでいきます。


「こいつ、剣が当たらねぇ!」

「くぉ、速い、ぐがっ!?」

「正面を固めろ! これ以上進ませるな!」

「待機中の奴らも呼べっ! ピエール、急げ!」


 夜警についていた傭兵たちが混乱に陥り、続々と増援も集まりつつあります。

 遠目に様子をうかがっていたワッシュバーン組系コロンバス会の構成員は、好機が訪れつつあるのを感じていました。


「いいぞ、もう少しだ。もう少し。そろそろ出るぞ、お前らも準備いいな!」

「アニキ、あの大門とかいう野郎、本当に大丈夫なんですかい? いくら強くても、たった一人でどこまで持つか」

「黙って見とけ。俺らが束になっても、手も足も出なかった奴だ。現に今もかなりの人数を相手に立ち回ってやがる。すでに十分なくらいだ」


 更なる増援が現れたタイミングで、コロンバス会の構成員も動き出します。


「頃合だな、行くぞ!」


 気取られないよう遠回りで裏口に向かうと、残っていた傭兵を一気呵成に打ち倒しに掛かります。


「なんだ貴様ら!?」

「ここまできたら遠慮はいらねぇ! 一気に蹴散らせ!」


 秘密裏に裏口の傭兵を排除できるほどの技量差はありません。あるのは人数差と勢いだけです。

 裏口からの押し入りもバレることを前提に、最初に刑死者の勇者が大半の傭兵を引き付けるのです。

 手薄になったところをコロンバス会が押し通る算段となります。

 傭兵の半数以上を勇者がたった一人で受け持てるからこその、単純極まる力押しの作戦でした。


 本来なら刑死者の勇者だけで全てを成すこともできるのですが、あくまでも協同で行うことが重要なのです。


 刑死者の勇者の目的の一つは暗黒街に伝手を作ることですが、一人で目立つよりも協調しながら大きな実績を作ることのほうが効果的です。

 手柄を独り占めにしてはメンツを潰すことにもなってしまいますし、協同でシビアな作戦を成功できれば反発している構成員とも打ち解けやすくなります。

 一応は勇者として、馴れ合う気まではありませんでしたが、仲良くしておいたほうが伝手としては使いやすくもあります。


 手薄になった裏口を制したコロンバス会は中へと押し入り、裏口同様に手薄となっている建物の中を漁ります。


「グラッツたちは金を探せ! マイクたちは残った傭兵を潰すんだ! 手早くやれよ!」

「こっちだ、暢気に便所に入ってやがる! ぶっ殺せ!」

「早くやっちまえ! 次は上だ!」


 踏み荒らすコロンバス会に、完全に後手に回ってしまった傭兵団です。中には寝ていた者までいて、傭兵団は本来の力を全く発揮できないままに制圧されていったのでした。

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