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初めての魔物

 勇者たちの戦いを眺めつつ、なんとなく副団長と目が合って苦笑いを浮かべると、急に真剣な顔つきになる副団長。

 その直後、茂みの向こうから魔物が飛び出してきたではないか。

 驚いたのも束の間、副団長が流れるような抜刀から見事な一撃で、魔物を叩き切って見せた。やるもんだな。


 だが、そこで事は終わらなかった。

 叩き切られた魔物の影から飛び出すように、もう一匹が副団長の脇をすり抜けてこっちに向かってきた。


「勇者殿!」


 驚くには驚いたが、俺は思ったよりも冷静だった。

 なぜなら、その魔物の動きが良く見えたからだ。


 踊り掛かってくる魔物から軽いステップで横に身をかわすと、すれ違いざま反射的に拳を叩き込む。

 肋骨の辺りを捉えた拳は、易々と骨の砕ける感触を残して魔物をぶっ飛ばした。

 数メートル離れたところで転げる魔物は、二度と動き出すことはなかった。


 拳を構えたまま呆然としてしまうが、そのまま呆然とさせてはくれない状況に置かれてしまった。


「勇者殿、ここは危険だ! 新たな群れがこちら側からやってきている!」


 他の勇者や騎士たちと合流できる位置に移動しろということらしいが、次から次へと押し寄せる魔物を副団長だけに引き受けさせるわけにもいかないだろう。


 しょうがねぇ、やるか。一度やってしまえば要領は覚えられる。加減だって利くだろう。


「その、ゴブリンだったか。そいつら程度なら俺でもなんとかなる。副団長、背中は任せるぞ!」


 俺はむしろ積極的に前に出る。横や後ろからくる魔物を副団長に捌いてもらうほうがやり易いからだ。前に集中できればなんの問題もないはずだ。

 できればメリケンサックくらいは欲しかったが、ない物ねだりをしてもしょうがない。

 それに、久しぶりの暴力に少しだけ高揚する。



 無駄なことを考えながら、次から次に襲いくるゴブリンを殴りつけては一撃で絶命させていく。


 彼我の速度差から分かる尋常ならざる体の速度。

 止まって見えるとさえ形容できそうな動体視力。

 怪力といって控えめなほどの凄まじいパワー。


 生まれ変わったような勇者の体のスペックを満喫する。

 こいつは、ヤバイ。元ボクサー的に表現するなら、そう、これなら世界を獲れる!


 実際、隣で剣を振るう副団長の剣を見る限り、もっと体が慣れれば騎士の剣も避けることは普通にできそうだ。

 初めての魔物との戦闘だが、思ったよりはやれるな。


 他の勇者のガキどもとの差は、圧倒的に対人戦の場数が違って殴り慣れていること。人を痛めつけることにも慣れていて躊躇いがないこと。それと負傷に慣れていることもあるか。


 普通なら戦い、それも命の掛かった場面ならば、恐怖で体は固くなる。

 戦いに慣れない人間なら、上手く身動きできなくなるのが当たり前だろう。どれだけ身体能力が高くても、それは変わらない。


 いくら悪党の俺でも殺人の経験まではないが、それでも醜い化物を殺すことには何の躊躇いも感じないし、戦い慣れた上に一度は死んだような身の俺に恐怖はない。その辺りが決定的な差になっているのだろう。


 気がつけば俺と副団長は、群れの別働隊を二人で殲滅していた。



 こっちの異変は騎士団の連中も察知していたようだが、俺と副団長の戦いぶりから放置することにしたらしい。

 相変わらず死に物狂いの形相でおっかなびっくり余裕のない勇者たちを、騎士団がサポートしながら頑張っているようだ。

 それにしても、思ったよりも粘るな。若い勇者たちも正直、よくやっていると思う。


「刑死者の勇者殿は、戦士だったのか? 初めての戦闘とは思えぬほど堂に入っていたが」


 感心したように副団長はさっきの戦いぶりを称える。


「いや、戦士というほど大層なものじゃないが、戦い自体には慣れているかもしれないな」

「それは僥倖だ。あとは魔法を使いこなせれば、刑死者の勇者殿であれば問題なかろうな」

「ゴブリンってのは弱い魔物なんだろう? まだ判断するには早いな」


 さっきの戦闘は初回にしては上出来だったらしく、副団長はご機嫌だ。

 経験を積ませる意味での今回の戦闘では、俺にはもう十分だと思ったのか、必死な勇者たちを尻目に二人で雑談に興じた。

 まだ油断はできないが、あとはガキどもの戦いを見物させてもらうとしよう。


 そのまま危なっかしいながらも戦闘は順調に推移していき、最後にボブカットの嬢ちゃんが泣きじゃくりながらゴブリンを切り捨てたところで決着した。

 半分ブチ切れているような、やけっぱちな一撃だったが見事な一撃といっても良かった。


 精も根も尽きたかのような勇者たちが、ノロノロと馬車に乗り込むのを見送ると、そこで絶望感に目の前が真っ暗になる。

 また馬車に乗るのか……。

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