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お守りの依頼

 恐縮するマクスウェルが、更に言いにくそうにしながらも王宮からの注文とやらを語りだす。


「結論から言いまして、人を預かって欲しいのです」

「……ちょっと待て。俺が預かるのか?」

「そうです。ぜひ、大門殿にお願いしたいと」

「いや、なぜそうなる。まさか、ここでじゃないだろうな?」


 何を言っているのかさっぱり分からないが、急速に膨らむ嫌な予感に、これ以上の話を聞きたくなくなる。だがマクスウェルは己の仕事を果たすべく、無情にも話を続ける。


「ええ、そうなります。身柄を預かっていただきたいのは、大門殿以外の勇者殿が六人です。どなたも戦闘への忌避感や、他の勇者殿との性格上の問題などで、勇者としてのお力を存分に発揮できない状態にあります。そこで年長者である大門殿にお預けして、大門殿の仕事を手伝う、あるいはご指導いただくなりして、せっかくの勇者のお力を活かしていただきたいのです」


 早口で語るマクスウェルも、嫌なことを言っている自覚があるのだろう。こいつも仕事だしな。嫌なことでもやらなきゃならない。


 言われた俺のほうも、きっと鏡を見れば最悪にげんなりした表情をしていることだろう。

 よりにもよって、ほかの勇者を預かるだって?

 これ以上の面倒事もない。第二種指定災害と遊んでいるほうがまだマシだ。


 戦えない、という事情は分からなくもない。どうしたって無理な奴はいるだろう。だが、そうでない奴もいそうだ。

 つまりは問題児を引き受けろってことだろ。まったく、子守なんて冗談じゃねぇ。


「……いくらなんでも、俺と一緒に住まわせるってのはねぇだろ。しかも六人は多すぎる。王宮に住まわせとけよ」


 たしかに、この別荘は元王家のものだけに部屋数はやたらと多い。六人分程度の個室を与えてもまだまだ余る。それとこれとは別の話だが。

 それに加えて俺は若い勇者どもと面識がない。同じ勇者同士でそれもどうなんだと思うが、今更の話でもある。

 更には面識どころか名前さえ知らないのだ。いきなり同居はこっちにとってもかなりの負担だ。


「それも難しいのです。戦闘に出ない勇者殿ですと、肩身の狭い思いをさせてしまうことにもなりかねません。勇者殿は特別な存在ゆえ、目立ちますからね。好意的とはいえない噂や視線に晒させてしまうのは可哀想でしょう。だからといって大門殿のようにお一人で暮らすのも若者同士だけで暮らすのも、おそらく良い結果には結びつかないと考えています」


 まあ、それもそうだな。一理ある。

 ガラスのハートを持った若い勇者、それも潜在能力だけは一級品だ。そんな奴を放置しておいて、突然キレて暴れ始められでもされたら大惨事になってしまう。どこぞの悪い奴らとつるまれても厄介だろう。


 繊細な若者が何を切っ掛けにして爆発するか見当もつかんし、同じ勇者である俺の監督下に置いておきたいのだろう。

 それに生活力のないガキが一人暮らしなんて、ハードルが高すぎる。なんといっても、ここは異世界なのだからな。



 しかしな、簡単には受け入れられん。思春期のガキを六人も抱えるなんざ聖人君子の行いだろう。俺には不可能だ。


 特に男は無理だ。断固拒否せざるを得ない。なにかムカつくことがあったら、クソ生意気な男なんて勢い余ってぶん殴っちまうかもしれない。

 手加減ができる状況ならまだしも、相手もガキとはいえ勇者だ。殺し合いに発展しないとも言い切れない。


 男よりはマシだが、女であっても歓迎できるはずもない。

 一時期、精神的なところで問題はあったが、俺は基本的には女好きだ。だが、女といっても勇者の女はまだガキだ。俺の守備範囲ではないから楽しいこともないし、そうでなくても迂闊に手を出すわけにはいかない。ナンパした女や商売女を連れ込む際にも邪魔になる。


 考えれば考えるほど憂鬱になるな。国のメンツが掛かっているなら、そのまま拒否しても今度はこっちの要求がはねつけられそうだ。


「断ることは……できないか。わざわざお前がこんな話を持ってくるくらいだからな」


 マクスウェルはこっちの事情を完全に承知している。事前調整においては、王宮の要求もできる限りで跳ね付けてくれてたはずなのだ。その上でこんな話を持ってくるしかなかった、こいつの立場や事情もある。


「すみません、大門殿。どうにか引き受けていただくようにと厳命されておりますので……」


 ならば妥協点を探るしかない。全面的な受け入れは無理だが、可能と思える範囲で引き受ければ、そもそもは向こうの落ち度なんだ。こちらの言い分を完全に拒否はできないだろう。

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