合わないチーム編成【Others Side】
若き勇者たちの強化合宿は終盤を迎えていました。
基礎的な訓練は今後も継続していく必要がありますが、基本的な武器の扱い方や特殊能力の使い方は、個人差はあれおおむね順調に学習できていました。
さらに、魔物との実戦を繰り返すことによって、一部を除いて戦闘への忌避感は大分払拭することにも成功していました。
今日もくじ引きによってチーム編成された勇者たちは、好むと好まざるとに関わらず魔物が棲む山に挑まされます。
順調に実力や経験を伸ばすチーム、あるいは個人がいる一方で、その逆に全く慣れず戦えないままの者や、やる気のない者もいました。
「まったく、この班はどうなっているの!? どうして真面目にやらないの!」
思うように連携できない怒りを爆発させるのは、委員長のような風貌をした女子高生です。彼女は正義の勇者と呼ばれています。
「落ち着けよ、ミサオ。全員がボクたちのようにできるわけじゃないんだ」
こちらも委員長然とした男子高生は審判の勇者と呼ばれています。彼は寄り添うようにして、怒れる正義の勇者をなだめていました。
一方、怒りをぶつけられているのは三人です。
戦車の勇者はフォーメーションや連携などを考えず、勝手気ままに敵に突撃したり、気になったものを見るためにいつの間にか居なくなったりしていました。
死神の勇者は戦闘に関してあまりに消極的で、近寄ってきた魔物を手にした短杖で追い払う程度でした。倒すことはもちろん、サポートも何もせずにただ怯えたように逃げ回っているのです。
月の勇者は前者よりも多少はマシでしたが、それでも近寄ろうとする魔物に弓矢を射る程度で積極的に戦おうとする姿勢は全く見えませんでした。
結果として正義の勇者と審判の勇者が遭遇するほとんど全ての魔物を引き受けることになり、疲労は蓄積し非協力的なメンバーに怒りが募ります。
審判の勇者はなだめ役を買って出てはいますが、それは非難されるメンバーを庇うというよりも、単に正義の勇者と親密になりたい一心としか思えない態度です。現に彼の視線は正義の勇者のみに固定されていました。
「なんだよ? 俺だって敵は倒してるだろうが。むしろ、お前らよりも倒してる数はもっと多いんじゃねぇか? あ?」
平時には爽やか系スポーツ少年である戦車の勇者は、己の戦果に見合わぬ非難に、こちらも負けじと怒りをあらわにしています。
ギャルっぽい女子高生と根暗な感じの女子高生は、そんな周りの様子を歯牙にもかけず前髪を気にしたり考え事に没頭していたりしています。不穏な空気をものともしないところだけは大物かもしれません。
「ちゃんと連携しなさいって言ってるの! チームの意味がないでしょう!? ただでさえ働いてくれないのだっているんだから!」
「それってあたしらのこと言ってるわけ? あんたの無意味な探索に仕方なく付き合ってやってる、こっちの身にもなりなさいよ」
ギャルっぽい女子高生の主張にも一理あります。騎士団から指定されていたトレーニング内容はすでに終えていますので、現在行っているのは自主練習の範囲になるのです。
やる気がある者とない者とで差が生じるのは当然です。もっとも、やる気がなかったのは最初からだったのですが。
険悪な雰囲気が最高潮に達しようかというときに、タイミングが良いのか悪いのか魔物の群れがやってきて、否応なく戦闘に突入することになりました。
男子である戦車の勇者と審判の勇者は、怒れる女子の気をそらす魔物に感謝を送り、密かに安堵の息を吐くのでした。