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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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屋敷探索

 絶望的な気分になりながらも、意を決し廃屋に侵入する。

 最初に足を踏み入れた玄関ホールはとにかく汚い。吹き込んだ雨と砂埃のせいで泥のようなものが堆積している。

 かつては調度品が置かれていただろうスペースは空っぽで何もない。

 ほかに見るべきものはなく、いくつか開け放たれたままの扉の向こうをなんとなく見ながら通り過ぎた。


 最初に確かめたのは普通の部屋ではなく水場だ。台所に風呂にトイレ、これが機能しなければ話にならない。

 仕組みは知らないし興味もないが、王宮では普通に蛇口を捻れば水は出た。ここでもそうであることを願いたい。


 広々とした調理場と思しき場所で水道を前に考える。

 ここはどうか、半ば祈りながら埃で汚れたままの蛇口を思い切り捻る。


 一瞬の間をおいて、赤い水が勢い良く噴き出した。

 そのまま出しっ放しにしていると、次第に水は透明になっていったことから、赤かったのはただの錆だろう。

 同じように風呂とトイレの水も確かめるが問題ないようだ。


「……水は出るのか。最低限は確保できたな」


 もちろん水だけでは生活に不十分。次は火だ。

 台所の操作方法は分からないが風呂なら分かる。水風呂に入れるほど暑い季節ではないから、湯が使えなければ厳しいものがある。


 出しっ放しの水をそのままに、王宮の客間にあった風呂の構造から、なんとなくの推測で適当なスイッチを押してみた。

 すると次第に水から湯気が立ち上り始めた。


「お湯も出るのか。これなら台所でも火は使えそうだな」


 流れる湯に手を当てながら安堵の息を吐き出す。メンテは必要だろうが、取りあえず使えるなら今はそれでいい。

 まだ明るい時間帯で気が回らなかったが灯りも重要だ。試してみれば幸運なことに、これも生きていた。

 廃屋の割に奇跡的にインフラは機能しているようだし、掃除さえすれば住めないことはない。


 ただ、それでは最低限をクリアできただけだ。

 気は重いが居住エリアとなる部屋の状態を確かめに行くとしよう。インフラと同様に、基本的な生活スペースだって大切だ。



 始めに気になっていたがスルーした大広間に足を運んでみる。

 部屋に入った感想は、広い、そして埃が凄い。それだけだ。


 ものの見事に何もない。ソファーもテーブルもチェストも調度品も何もかもだ。

 元は敷いてあっただろう敷物すらなく、汚れた石の床が剥き出しだ。あるのは取り外しができない据付の棚くらいのもの。


 入り口の脇にあったスイッチを押してみれば灯りはついたし、どうやら空調も生きているみたいだ。

 施設としての機能は生きているが、それ以外が壊滅的だな。他の部屋も同じだと予測をつけて順に回ってみた。


 一通り見て回った屋敷は王家の別荘らしく延床面積はかなりの広さがあり、二階建てで地下室まであった。


 しかし、どこも状況は大広間と変わらない。何もなく埃だらけで泥だらけ。

 寝室もマットや布団どころかベッドのフレームすらない。どこもかしこも調度品や家具はなく、金目の物は全く存在しない。

 外を見ているマクスウェルのほうも多分同じだろう。



 当初思い描いた事とは何もかもが違う。だが、ある意味では開き直れた。

 しかし王国の目的が分からん。勇者である俺に一体なにがしたいのか。手違いがあったのか、誰かの嫌がらせか。


 どんな理由であれ、これでは裏切られたようなものだ。

 つまり、こっちとしても遠慮をする必要がなくなったわけだ。


 俺は王国に命を救われたが、義理を果たすべく体を張って無茶な要求にも応えてきたつもりだ。

 第二種指定災害の単独討伐は、その借りを返すには十分な実績のはずだ。王からの褒美はその象徴だと思っていた。

 もうこれ以上、命を賭けてまで救ってやる義理はない。いや、義理ならもう果たしただろう。


 姿をくらませて、気ままに旅でもしてみようかと現実逃避気味に考えつくが、思いとどまる。


 ……冷静に考えよう。縁を切るのは簡単かもしれないが、それは勿体無い。

 せっかく手に入れたコネと勇者の力を使わないなんて考えられない。成り行きとはいえ、こんな世界にきてしまった以上は、どうにか生活していくしかないのだからな。


「そうだ、ポジティブにいこうじゃねぇか」


 王国の俺への要求は、この国の守護だったはずだ。

 若い勇者たちは魔神の討伐に行かねばならないらしいが、俺はずっと王国に残る想定だ。現状、俺以外に単独で脅威に対抗できるのはいないらしいしな。

 そう、仕事はしてやろうではないか。ただし、タダではない。


 俺はこの屋敷に暮らし、王国から依頼を受けて仕事をする。

 もちろん、相応の金を受取って。なんてフェアな取引なんだ。


 王様の気まぐれで発生する褒美なんかじゃない。あらかじめ脅威度に応じて定めた料金をもらう。それも常人にはできない事だって、勇者の力を使ってやってやろうというのだ。金で解決できるなら安いものだろう。

 ガックリときていた心に、少しずつ活力が戻るのが自分でも分かった。

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