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ボスゴブリン

 戦闘音で襲撃が分かっていたのだろう。ゴブリンどもは生意気にも洞窟内で待ち伏せをしていた。

 洞窟に一歩足を踏み入れた途端に、いくつもの弓矢が襲いくる。知能があるというのは嘘ではなく、手の込んだ武器まで使ってくるらしい。


 戦闘中はスローモーションの世界にいる俺にとっては、飛び道具とて見えているなら脅威にならない。

 速度差にものを言わせて近づくと、目に映る端から一撃で殴り殺していく。


 同じことの繰り返しだ。飛び道具だったり、剣だったり、斧だったり、槍だったり。時には魔法を使ってくるのまでいたが、結果は何も変わらない。


 逃げ出す奴は放っておいた。騎士団にも出番は必要だろう。

 ゴブリンの亜種というのは、人間に近い知能があるように感じる。

 洞窟内は松明によって明るさが保たれていて、進むのにも支障はない。ただの魔物にここまで知能があるのが驚きだ。今更殺すことに躊躇いはないが、意外には思う。


 そんな事を考えつつ、拳闘無比のスイッチのオンオフを実験しながらも、然程の時間を掛けず最奥にたどり着いた。そもそも深い洞窟というわけでもない。



 ベッドのようなものに腰掛けたゴブリンのボスは、なかなかの存在感がある。

 他の小柄な一般的なゴブリンとは違って、人間の成人男子くらいの大きさがある。しかも随分と筋骨隆々としている。体のボリュームだけなら俺以上になるだろう。ボスらしく、堂々とした存在感だ。


 それにしてもムカつく魔物だ。魔物の分際で女を侍らせてやがる。

 ゴブリンのメスなんぞ嫌悪しか感じないが、ハーレム状態のオスには殺意を禁じえない。

 酷い臭いが立ち込める空間にも苛立って、さっさと終わらせるべく襲い掛かった。


 スローモーションの世界の中で悠々と近づいて、インファイトの距離まで接近すれば、全能感を覚えるほどの力で圧倒できる。

 魔物なんぞに容赦をする余地はない。連続で叩き込む拳は、ゴブリンにとって全てが致死の一撃だ。


 なす術のないゴブリンを殴りつける拳は、その一撃ごとにほんの僅かずつだが重さを増しているようにも感じる。感触からして間違いないが、徐々に慣れていっているせいだろうか。

 重さ、キレ、精度、当人でなければ気づけないほど僅かな差だが、確実に前進していると実感できる。


 瞬く間に命を刈り取った拳は、残されたメスゴブリンにも向かう。

 メスどもはボスを殺された恐怖よりも怒りが勝るようだが、魔物の感情など知ったことではない。

 今度は拳闘無比のスイッチをオフにすると、パッシブで劣化した能力しか発揮されない状態でゴブリンを片付けた。

 簡単な仕事だったな。



 酷い臭いの立ち込める洞窟をさっさと後にすると、外での戦いにも決着が付いていた。

 軽症者が数名いる程度での圧勝だ。無事に初陣を乗り切った新米騎士も、これからはよく働いてくれるだろう。少しは勇者に楽をさせてくれればいいのだがな。


「楽勝だったな。お前も武勲をあげて褒美の一つも貰えるんじゃないか?」

「まさか、それはないでしょう。勇者殿のお陰で私のほうこそ楽ができました。こんなに早く終わるとは思いませんでしたがね」

「そうだな。遅くなるよりはいいが、呆気なさ過ぎたな。後始末はどうする?」

「後は我々が。新米の仕事はむしろこの後始末が本番ですからね」


 念のためという事で、洞窟内は騎士によって隈なく調べられて、ついでにゴブリンの死体は適当に埋めて処理された。

 その一連の作業で俺の戦果も確認されたらしく、大勝利の結果に指揮官を任されている騎士もホッとしたのか嬉しそうだ。


 新米騎士は戦闘行為よりも、ゴブリンの死体の処理に辟易としていたようだったが、それも騎士の役目であるなら頑張ってもらうしかないな。俺にとっては他人事だが。


 全ての作業を終えると、山を降りたところで今夜は野営だ。

 そして、また憂鬱な馬車での移動となる。俺が勇者として授けられた特殊能力だが、ぜひとも乗り物に酔わない特殊能力が欲しかったと切に思う……。

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