たった四つの特殊能力
寝そべりながら考える。もちろん、さっき初めて知る事になった特殊能力についてだ。
俺の特殊能力は全部で四つ。他人と比べることに意味はないが、たった四つしかないからこそ全てを使いこなせるようにならなければ、化け物がはびこる世界で生き残ることは難しいだろう。
まして勇者として最前線に立たされるなら、その程度ができなけりゃ話にならない。
騎士によれば、俺は特殊能力を使っていないと言っていたが、それはないだろう。無自覚ではあったが、あの動体視力と速度は尋常ではない。
全ての勇者に俺と同じことができるのかどうか確認したいところだが、そうでないとしたら、それは特殊能力『拳闘無比』の影響に違いない。
指定災害とまで称される魔物と肉弾戦ができる能力だ。勇者の肩書きに相応しいと思える。
まだまだ完璧に能力を引き出せているとは思えないし、これは訓練や実戦の中で磨きを掛けていくしかない。
こうなったら、久しぶりにトレーニングに精を出してみるか。
まず『拳闘無比』はどう考えても、俺が元ボクサーだったことから獲得できた特殊能力だろう。
実戦の中で自然と能力を使っていたのか、全然発揮できていなかったのか、これからの検証が大事になる。
もし、あの時以上の能力が発揮できるようになるなら、これ以上頼りになる能力もない。
しかもだ。拳闘という能力名に付随するのは無比。比べるものが無いときたもんだ。
ボクサーに求められる能力が極限以上に与えられたのだとすれば、考え付くだけでも凄まじい。
能力としては純粋なパンチ力だけに限らない。
フットワーク、反射神経、動体視力、打たれ強さなどの身体能力。
それに肉体的なことだけではない。
戦いにおける闘争心は、勝敗を分けるほどに重要だ。俺は別にバトルジャンキーって訳じゃないが、魔物のような敵を前にして恐れを知らずに力を発揮できるのは重要なことだろう。
それに先を読む能力に体のコンディションの把握、ペース配分に気を配る冷静さだって必要だ。インテリジェンスって奴だな。
そこまで至れり尽くせりとは思わないが、獲得した能力を十全に発揮できたとするならば、肯定的な可能性は考えておくべきだ。始めから無理だと決め付けるのは良くない。
実際にはどうだか分からないが、純粋に楽しみな能力だ。
次の『呪詛』は意味不明すぎてどうすればいいのか、さっぱり分からん。
唯一、魔法っぽい能力な気はするが、できればもっと分かりやすい能力にして欲しかったところだ。
元の世界では、それこそ呪詛の言葉を吐いたことなんて数え切れないくらいあるが、それが何になるというのか。筋道すら見えないこれは保留にするしかない。
ネガティブに考えれば不吉な能力名から、使ったら自身にも被害がありそうで、イマイチ乗り気にならない気持ちもある。むしろ、不意に発動してしまう事を恐れた方がいいかもしれない。
三つ目の『逐電亡匿』は俺が逃亡生活を送っていたことに関わりがありそうだが、これも良く分からない。
なんとなく想像がつくのは、逃げ足が速くなったり、隠れるのが上手くなったりするのだろうか。
今後も魔物と戦うならば、状況によっては逃げたり隠れたりもするだろうし、試してみる機会はいくらでもあるはずだ。一応、役に立ちそうな能力ではある、かもしれない。
『呪詛』もそうだが、勇者っぽくない名称は気になるところだな。使える能力なら別になんでも構わないが。
最後の『極致耐性』はなんとなく分かる。
グシオンとの戦いで大した怪我をしなかったのは、この能力のお陰だろう。ただ、これも漠然としすぎている。何に対する耐性なのか、どれだけ耐えられるのか。グシオンには火と蹴りを食らっているから、そのあたりの耐性はあると思うが、詳細は一切不明だ。
実際に何をどれだけ耐えられるのか、試してみるのはリスクが大きいし、これもなかなか難しい。
耐性であることからパッシブな能力だろうし、俺に自傷趣味はないからな。いざという時の保険のようなものとして割り切ろう。
ちょっと考えただけでも俺の特殊能力は訳の分からんものが多い。不吉なものも混じっているし、前途多難だ。
やはり現状で頼りになるのは『拳闘無比』しかない。
今はこの能力を理解し、伸ばすことに集中しよう。それ以外にできることがないともいうが、前向きにいこうじゃないか。
少なくとも『拳闘無比』を使っていたであろう戦いの間だけは、少しは楽しめた。
そういや、他の勇者の能力についても、参考程度には聞いておきたいな。
ひょっとしたら同じとまではいかなくても、似たような能力の持ち主はいるかもしれない。
若者の方が柔軟な発想力があるだろうし、一人だけで悩んだり研究するよりも、いい結果に結び付くだろう。