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勇者の特殊能力

 騎士団長の部屋に戻ると、不機嫌さを隠すことなく抗議する。

 特にグシオンが二匹もいたこと、武器が全く使い物にならなかったこと、場合によっては致命的な問題だ。


「おう、団長さんよ、俺を殺す気か?」

「そんなはずはなかろう! まあ無事だったのだから良いではないか。それにしても勇者殿は凄まじい実力だな。見届けた騎士から、詳細は聞いているぞ」


 ダメだこいつ。全然分かってねぇ。

 その後も、単身で複数のグシオンに立ち向かい、またもや都市や住人に全く被害を出さずに勝利を収めた事を大いに賞賛されたが、それとこれとは話が別だ。

 そもそも、あのクラスの魔物が人里近くに現れることは、数十年に一度あるかないかの大事件って話はどこにいったんだ。短期間に出すぎだろ。


 さらにだ。良く考えてみれば、瀕死の俺を五体満足に復活させるほどの魔法がありながら、腰痛に悩まされる騎士団長ってのもおかしい。こいつ、サボっているんじゃないのか。



 俺は怒っている。まともな情報や道具も渡さず、たった独りに全てを押し付け、結果オーライとのほほんとしている全てのアホどもに。


 何も考えていなさそうな騎士団長だが、俺の不機嫌さが増すにつれ、冷や汗が多くなってきた。多少は事態の深刻さが理解できたのだろうか。

 空気を変えたかったのか、団長は話題を転換した。


「そ、そういえば勇者殿、特殊能力を使っていないらしいと聞いたのだが本当か?」

「特殊能力だと? なんのことだ。また俺が知らない話か」


 冷たい声に硬直する騎士団長に詳細な説明を要求する。

 慌てて弁明してから始める騎士団長の説明によれば、特殊能力とは、魔法を始めとする持って生まれた特別な能力の事を指すらしい。


 勇者に限っては、持って生まれたというよりは元の世界での経験によって、この世界での特殊能力が決定される傾向にあるらしいとか。

 もちろん勇者らしく歯の高い下駄をはかせたような極めて強い力を伴ってだ。


 そしてどんな特殊能力を持っているかは、専門の調べることに特化した特殊能力の持ち主によって、簡単に調べることができるらしい。

 まったく、便利な話だ。



 若い勇者は全員が二十種類前後と多数の特殊能力を持ち、最低でも三種の魔法を使えるらしい。

 その数は破格で、常人であれば持ち得る特殊能力は多くても五つ程度。魔法は一つ限り。

 勇者の破格さがその数だけでも理解できる。


 さらに破格なのは数だけではない。勇者が備える特殊能力は、常人が決して持って生まれることのない、分かりやすく強力なものなんだとか。


 例えば火炎魔法なる特殊能力が存在する。だが、勇者の場合には普通の火炎魔法とはならない。

 何人かの勇者が持っているらしいそれは、上級業炎魔法というらしい。『上級』がついた上に、『火炎』が『業炎』となって強そうな名称に変わるわけだ。なんて分かりやすい。


 他にも『上級』と名の付く魔法やらなにやらがあって、上級凍結魔法、上級生命魔法、上級結界魔法、上級業炎耐性、上級打撃耐性、上級麻痺耐性、などなどたくさんある。

 その辺の特殊能力は多くの勇者が持っていて、彼らにとっては汎用的な特殊能力に該当すると称しても遜色ないらしい。


 もちろん勇者だけあって、汎用的な上位の特殊能力以外にも、各人が様々にユニークな能力を有するらしい。

 誰がどんな特殊能力を持っていようが、俺には関係ないから、その辺で止めさせる。

 知りたいのは、俺自身がどんな特殊能力を持っているか。それに尽きる。


「あのよ、なんで俺にそれを最初に教えないんだ? 魔物と戦わせようってんなら、まずもって重要なことだろ」

「こう言っては何だが、既に知っているものと思っていたのだが……実戦に出るのは今回が初めてではないだろう?」


 それもそうだが、誰も彼もが、誰かが伝えているはず、と思い込んでいたということか。相変わらずのしょうもなさだ。

 激しい脱力感に襲われながらも、騎士団長に改めて俺の特殊能力を確認した。



 妙に緊張した様子の騎士団長が告げた俺の特殊能力はこれだ。どうやら気を失っている間に、勝手に調べられていたらしい。


 一つめ、呪詛。

 二つめ、拳闘無比。

 三つめ、逐電亡匿。

 四つめ、極致耐性。


 俺が持つ特殊能力は僅かに四つ。その内、魔法と名が付くのは一つたりともない。

 人生経験によって特殊能力の数が決定されるならば、年長者である俺の所持数が少ないのはどうしたことか。

 例外があるってことなんだろうが、納得することは難しい。俺の人生経験の豊富さは、自分で言うのもなんだが、そこらのガキとは比べ物にならんと思うんだがな。悪い意味に偏ってはいるが。


 まあいい、俺はただ現実を受け入れるだけ。いつものことだ。



 しかし、いざ若い勇者と比べると悲惨なものだ。

 二十種類前後と四つでは違いすぎるし、俺の四つではこの世界の住人と数の上では変わらないレベルだ。

 名称を聞く限りでは、上級なんたらと名が付く汎用的な特殊能力だって一つもない。


 ただし、どれもがユニークな特殊能力であり、王国の歴史を振り返ってみても同じものはないらしいってのが救いではあるか。

 だがそれは他の勇者も同じこと。彼らは汎用的な強力極まる特殊能力以外にも、独自のユニークな能力がある。それも俺と同じく、王国史上類をみない能力ということだ。

 なんだそりゃ。現状はともかく、ポテンシャルでは圧倒的に俺がしょぼいってことになる。


 これを聞けば俺の扱いが雑なのもなんとなく分かってくる。

 二十種類前後の特殊能力、それもどれもが強力無比な力を持つ勇者たちの中にあって、一般人レベルのたった四つの特殊能力しか持たないおっさん。そりゃ捨て駒扱いされるわ。


 ただユニークな特殊能力については、具体的な詳しい効果までは分からないらしく、自分で地道に調べるしかない。有用な能力ならば、まだ救いはある。

 無駄な希望を抱くことはないが、せっかくの能力だ。精々、使いこなせるようになってみようじゃないか。


 改めて必要なことを聞き出すと、妙な緊張感を漂わせる騎士団長に軽い挨拶をして自室に戻った。

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