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寝耳に水の化物退治

 急かす案内役の騎士に追い立てられるように馬車に乗り込むと、前回をなぞるようにして街門から外に出て、また独りで放置される。

 戦いの傷跡も生々しい、黒く焼け焦げた平原だ。またここが戦場か。


 戻っていく騎士は申し訳なさそうな顔をしていたが、ここまできたらもう覚悟も決まっている。

 騎士という存在を足手まといとまでは思わないが、化物が一匹しかいないのなら俺だけのほうがやり易いだろう。変に気を使うのも疲れるしな。



 前回と同じ状況でしばし待つと、見覚えのあるシルエットがまばらな林の向こうからやってきた。

 聞いていたとおり、前回よりも随分と小さい。それでも人間サイズよりは大きいだろうが。

 猿のような頭を持った人型の化物。禍々しい牙や爪を持った第二種指定災害、グシオンだ。


 すでに一度やりあった魔物だし、サイズも小さい。今回は武器も持っている。前よりは楽なはずだ。

 と、思ったのも束の間。グシオンの後方、少し離れた所を歩く、もう一つの姿。


「おい、聞いてねぇぞ」


 見間違いや気のせいなどではない。もう一匹のグシオンが姿を現した。

 確かに二匹ともサイズは小さいが、知っていて俺に知らせなかったのだとしたら、それこそ詐欺だろう。そうでなかったとしても、とんでもない見落としだ。

 やっぱりこの国の奴らは詐欺師みたいなのしかいないらしい。


 唖然とし、憤りを感じるが、魔物が人の気持ちを斟酌してくれるはずもない。

 始めに先を歩くグシオンが耳障りな雄叫びを上げると、こっちに向かって走り出す。続けてそれに合わせるように、後方のグシオンも同調した。


「畜生がっ! 化物のくせに一丁前に連携のつもりか!」


 負けじと走り出し、林の中で迎撃する算段をつけた。速度はこっちが圧倒的だ。

 先行するグシオンに急接近すると、正面からぶつかる振りをしてフェイントで避け、後方のグシオンに向かう。


 こいつらの耐久力は高い。少々の打撃や刺突程度で倒せるとは思えない。

 やるなら急所を一撃だ。それに二匹を同時に相手するほど、俺は無謀ではない。


 一匹ずつ、確実に仕留める。

 勢いに乗るグシオンは、俺の目から見れば遅いが、実際には凄まじい速度であるはずだ。その速度も利用して硬い皮膚を突き破ってやる。



 後方のグシオンは俺があっさりともう一匹を突破したことに対して、驚いたような挙動を見せた。その様子からして、やはり畜生よりは頭は回るらしい。

 だが、その驚きの挙動は、奴にとって致命的な隙を生む。

 加速する世界の中でさらに速度を上げると、手に持ったナイフをグシオンの胸元、みぞおちに突き立てた。


 会心の一撃に思わず笑みがこぼれかけるが、予想外の事態に今度は俺が驚愕する。

 ナイフが折れやがった。突き立てた刃はグシオンの皮膚を突き破ることなく、刀身は根元から折れて用を成さなくなっていた。


「ったく、国の危機だってのに、武器ぐらい上等なのを準備しとけってんだ!」


 悪態をつきながらもどうするか考える。

 通常は殴っても効果は薄いはずだが、幸いにも急所へのナイフの一撃は鋭い打撃としての役割は果たしたようで、グシオンは苦しげに膝を突いた。


 チャンス!

 加速する世界の中では逡巡など瞬間的な出来事だ。チャンスと見るや流れるようにしてグシオンの背後に回ると、首をねじるようにして一息に圧し折った。


「これで一匹!」



 もう一匹は仲間が殺されたことが理解できるのか、怒りの咆哮を上げながら俺に向かってくる。

 化物の怒りなど知ったことではない。これは殺し合いなのだし、所詮は化物だ。怒ろうが悲しもうがどうでもいい。

 それにタイマン勝負となれば、少しは余裕が生まれる。なにもやらせずに終わらせてやる。


 刃が通らず、打撃も効果が薄い以上、勝負の付け方は首を圧し折るのが手っ取り早い。

 有効な戦法であることは証明済みだし、こいつも同じ目にあわせてやる。


 向かってくるグシオンにこちらからも接近すると、またもやフェイントでかわして不意を衝く。

 その際、脇腹にナイフを突き立ててみるものの、俺の膂力と頑丈な皮膚に耐え切れず、刀身はあっさりと折れてしまう。


 期待していなかったこともあって、特に気にせず速度差にものを言わせて後ろに回ると、今度はひざ裏に蹴りを叩き込んでグシオンをひざまずかせた。そのまま背中を蹴りつけてうつ伏せに倒すと、首を取ってジ・エンドだ。


 要領さえ掴めば簡単なものだ。炎を撒き散らされて全裸になるのも嫌だしな。



 結果だけを見れば楽勝のようだが、偶々上手くいったにすぎないとも思う。

 良く考えてみれば、グシオンが他にどんな攻撃の手段を持っているのかさえ俺は知らないし、それによってはピンチを迎えた可能性もある。


 前回の戦いの時は、炎を浴び、蹴りを食らっても大丈夫だったが、あの鋭い爪や牙が肌に食い込めばどうなったか分からない。未知の攻撃手段だってあるかもしれない。


 そんな基本的な情報のやり取りをすることもなかったし、手早く要点だけでも俺に伝えられることはなかった。

 今回は俺のほうからも聞かなかった落ち度はあるが、この国の連中は正しい情報の伝達というものを軽視しすぎている。

 武器の事もそうだ。災害とまで称するような魔物が相手ならば、相応の武器が準備されていなければおかしいだろう。

 次に魔物が現れたとき、こんな状態では命がいくつあっても足りない。


「……冗談じゃねぇぞ」


 様々なネガティブな気持ちを込めながら、迎えにくる馬車に向かって吐き捨てた。

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