表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/441

塞がれた退路

 謁見の間から一度自室に戻ったが、すぐに騎士団の駐屯所に招集を掛けられた。

 今回は騎士団も帰っていることだし、単独で戦わされることはないだろう。それに前回ハードなのを経験したお陰か、割かし気楽に構えていられる。さすがに前回よりもマズイ事態なんて起こらないだろうからな。


 慌しい空気の中、一応は空気を読んで急ぎ足で馬車に乗り込み、騎士団の駐屯所に向かった。



 前の時と同じく、馬車の停留所のようなところでは騎士が待ち構えていた。

 挨拶もそこそこに案内にしたがって付いていくと、そこは以前と同じく副団長がいた部屋だ。


「アルノー団長、勇者さまをお連れしました」


 副団長ではなく、今度は団長か。謁見の間にもいた奴だな。

 部屋に通されると副団長の姿はなく、団長の姿があるのみだ。しかし、どうしたことか、団長は長椅子にうつ伏せになって横たわっていた。


「このような姿ですまない、刑死者の勇者殿。それにしても我が騎士団の者どもが怯むほどの面構えだな。はっはっはっ」

「顔のことはよく言われる。それはいいが、いったいどうしたんだ? それに副団長はいないのか?」


 俺の悪党面のことなんてどうでもいい。それより、こいつは一体なんで寝たままなんだ。


「グリューゲル副団長は所用で出かけていてな、しばらくは戻らん。わしはその、腰の調子が急に悪化してな。立ち上がるのがやっとの状態なのだ」

「……あの不吉な鐘を鳴らすほどの大事じゃなかったのか? 副団長不在に団長のあんたまでそんなんで、どうすんだよ」


 呆れるのも当然だろう。腰痛持ちの騎士団長ってなんだよ、全然使えねぇ。


「はっはっはっ、こちらには刑死者の勇者殿がいるではないか! 今回も頼むぞ」


 なに言ってんだ、こいつ。

 まさか、また俺だけにやらせる気か?


「ちょっと待て、他の勇者はどうした?」

「他の勇者殿はまだ合宿で王都にはおらん。それに若い勇者殿では、あれと戦うのはまだ無理がある」


 突っ込みどころが多すぎるな。

 初対面の団長だが礼儀など知ったことか。その辺にはうるさくなさそうだし、俺もざっくばらんにいかせてもらおう。


「状況が分からんから順番に整理させろ。まず敵とはなんだ?」

「うむ、言わずと知れた第二種指定災害だ。それもまたグシオンが出おった。今回は小型ゆえ、勇者殿であれば問題なかろう」


 またかよ、あの化物か。


「そういう問題じゃねぇ。俺以外の勇者がいない、副団長もいない、団長のあんたも無理、それでも他の騎士や兵士がいるだろう。なんでもかんでも俺だけにやらせるな!」

「そうは言っても、あの脅威に対抗するのは並大抵ではないぞ。騎士や兵士が戦えば犠牲は避けられないが、刑死者の勇者殿であれば全てが上手くいくのだ」


 合理的な考え方は嫌いではないが、それで俺が苦労をせねばならんとなれば抵抗もしたくなる。


「良く考えてみろ。あんな恐ろしい化物と正面切って、しかもたった独りで戦わされる身にもなってみろ。いくら勇者の力があっても、死ぬときゃ死ぬ。別に不死身になったわけじゃねぇだろ。はっきり言って、冗談じゃねぇぞ」

「確かに、そう言われてみればそうだが……。しかし騎士と兵士には、別方面での魔物に備えて既にそちらの警戒に出してしまっている。今更変えることはできんのだが」


 こいつ、退路を塞いでやがる。わざとやっているのか、偶然なのか、この国の奴らは詐欺師みたいのしかいねぇのか!

 そういや、王様にも直々に手伝ってくれと言われているし、結局はやるしかねぇか。クソッ!


「分かったよ、やりゃあいいんだろ、やりゃあよ! そうだ、せめて武器を寄越せ。メリケンサックはあるか?」

「メリケ、なんだ?」

「メリケンサックだよ! なけりゃ他の武器でもいいから寄越せ。もう素手でやる気はねぇぞ」


 前回は全裸で石ころを握り締めて戦ったからな。我ながら今思い出しても笑えてくるが、笑い事じゃない。武器は必須だろう。


「それなら武器庫に行って好きなのを持って行ってくれ。わしは動けんから、表で控えているのに案内させるとしよう」

「遠慮なく持ってくぞ。もうなんでも掛かってきやがれ!」



 団長の部屋を出ると、すぐに武器庫に案内させた。

 見たところ武器の類は沢山あるが、剣と槍がほとんどだ。剣や槍など貸してもらったところで、訓練もなしにまともに使えるはずがない。


 なにかないか……。ナイフくらいなら使えるか。

 ざっと見て回っていると、木箱の中に目的のナイフがたくさんあった。他に使えそうなものはないし、これでいいか。素手よりはマシだ。


 できれば防具も欲しいところだが、騎士甲冑なんかを着てまともに動けるとは思えないし、他に良さそうなものもない。

 前回の経験から問題ないと判断して、ナイフを二本だけ拝借して武器庫を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ