イケイケな合宿【Others Side】
王都から馬車で二日ほど離れた草原では、若き勇者たちの強化合宿が行われていました。
平坦で芝生のように背の短い草が生い茂るだけの、見通しが良く運動にも適している場所です。
目の前にそびえる山には魔物が生息し、近くには川も流れている自然豊かな場所でもあります。
その山の魔物を見張るための砦が建っており、ここが今回の合宿地として選ばれたのです。
砦には住居としての設備も整っていて、広い訓練場もあれば、実際に魔物と戦う事もその気になればすぐにできる立地にあります。
合宿地としては理想的な環境です。
勇者たちは午前中は主に座学、午後からは体を動かして勇者としての身体能力に慣れる訓練を中心に行っています。何事も基本が肝心で、これまでにも続けられてきたことでもあります。
次いで武器の扱いを学び始めます。
ここからはイケイケな若者たちにとっては、胸の躍る時間となります。
「やっぱり本物の剣は凄い。持っているだけで身が引き締まる感じがする」
「お前は剣道部だろ? だから特にそう感じるのかもな。俺は槍の方がしっくりくるぜ」
元剣道部だという坊主の少年が貸し出された騎士の剣をしげしげと眺めていると、スポーツ少年も嬉しそうに槍を弄びながら話をします。
「でも自分専用の剣が欲しいな。手に馴染むものでなければ、強敵とは戦えない」
「それは当然ですわね。女帝の勇者たるわたくしに凡百の剣など相応しくありません。それに、わたくしには得意な剣が別にありますし」
「君はフェンシング部だったか。いつか手合わせを頼みたいな」
坊主とお嬢様は、系統は違えど共に剣を嗜むようです。
もっとも、学校の部活動で覚えた、ただのスポーツと殺し合いとでは何もかもが違いますが。
お嬢様は細身の剣を手にしていますが、望む形状とは違っていて不満を隠そうとしていません。しかし戦意は旺盛で、見掛けによらず好戦的な性格のようです。
戦闘への意欲があるのは、勇者としてやっていくには重要な資質でしょう。
元々武道を嗜んでいた若者には特にその傾向があるようですが、それだけではありません。運動が苦手だった者にとっても、勇者の体のスペックは魅力的です。苦手にしていた体を動かすことに今では夢中になっている者もいます。
「僕は運動が苦手だったけどね。それでも今は思ったように体を動かせることが単純に楽しいよ。まあ、武器をどうこうするよりも魔法を早く使ってみたいけど」
「そりゃ、お前は魔術師の勇者だしな。どう考えてもそっち寄りだろうぜ」
年長者である大学生の若者は魔術師の勇者です。その真価は武器を振るうことではなく、魔法によるものだろうと簡単に推測できます。
「戦車の勇者である君こそ、戦いの申し子のようなものだろう? 頼りにしているよ」
「任しとけ! そこの剣道部、教皇の勇者と女帝の勇者だったか。奴らだって、いずれは俺を頼るようになるだろうぜ」
戦車の勇者であるスポーツ少年はとにかく前向きなようです。
降って湧いたような勇者の使命ですが、懸命にそれを果たさんとする生真面目な者たちもいます。生真面目代表は、委員長然とした少年と少女です。
「訳の分からない事だらけだけど、ボクは使命を果たすよ。こんなことになってしまったとはいえ、君と出会えたことだけは幸運かもしれない」
「そう? 私はやらなきゃいけない事をさっさと終わらせたいだけよ。足を引っ張る人なんて邪魔でしかないわ。ましてや使命に背を向けるなんてもってのほかね」
少年の熱いまなざしとは対照的に、少女はどこか冷めたような印象を受けます。
「審判も正義も真面目だね! よーし、あたしも頑張るぞ!」
委員長男子が審判の勇者であり、委員長女子が正義の勇者です。そして明るい少女が太陽の勇者でした。
タイプは違えども、それぞれが前向きに勇者として取り組んでいました。
しかし、そうはできない者たちも存在します。