進む状況理解
ようやく分かったことで、まずは王国の戦力について。
この王都に駐留している騎士団としては、王国騎士団の他にまだ近衛騎士団なる王宮を守護している騎士団があるらしい。
近衛騎士団の専門は貴人の護衛に特化しているらしく、野戦や魔物と戦闘をするようには訓練されていないってことだ。想定しているのは王宮や都市の中での対人戦のみらしい。
その近衛騎士団は身分の高い家の者だけで構成されているので、基本的には実力は二の次となり、いざという時に期待していい戦力ではないというのも付け加えなければならない。
要するに格好だけで戦力としては役に立たない連中ということだ。その辺はオブラートに包んで説明してくれたが、勇者と肩を並べて戦うには実力が全く足りていないということに違いはない。
それから第二種指定災害についてだ。
俺が独りで戦ったあの化物はグシオンと呼ばれる魔物で、第二種とは魔物の危険度に応じて分かりやすく分類したものらしい。
第二種指定災害とは、仮に正面からぶつかった場合、騎士団の大隊が決死の覚悟で多大な犠牲を出しながら、ようやく勝利できるかどうかという危険度の魔物なんだとか。
本来ならば多数を動員するのは当然で、さらに正面から挑むのではなく罠を張り巡らし、遠距離攻撃で弱らせた上で時間を掛けながら討伐する対象らしい。そんな危険な魔物の接近を許した理由は調査中らしいが、見逃したでは済まされない失態だろう。
そもそも、そんな危険極まる魔物に俺だけで挑ませるなど頭がどうかしている。時間稼ぎの捨て駒に使われたとしか思えん。
改めて怒りが湧いてくるが、マクスウェルに怒っても仕方ないし、ここは堪える。
一応、あのクラスの魔物が人里近くに現れることは、数十年に一度あるかないかの大事件らしいが、よりによってのタイミングだ。やっぱり俺は呪われているんじゃないのか?
そこまで珍しいのなら、今後は戦う機会もそうあるものではないはずだが、なぜか安心はできない。
王との謁見は、俺の功績や立場からしてみれば当然の話かもしれない。
若い勇者たちには召喚後すぐに謁見をして王自らが召喚の経緯やらなにやらを話したらしい。
俺はぶっ倒れていたから当然参加していないし、王がまだ会っていない俺を気にするのは理解できる。ツラくらいは拝んでおきたいだろう。
なにしろ、俺も世界を救うべく召喚された二十二人の勇者のうちの一人らしいからな。未だに信じがたい馬鹿げた話だが。
ほかにもマクスウェルは、アホでも理解できるよう簡単に色々なことを教えてくれた。
休憩を挟みつつ長時間に及ぶ即席の講義の時間は、夕食後まで続いた。
夜になると、今度は礼儀作法の時間だ。
いくら勇者といっても、一国の王に対して礼を欠いてはならない。
謁見における作法、言葉遣い、居合わせる重鎮の名前と役職、そのほかにも知っておくべき事前知識など、即席に教え込まれた。面倒だがこの世界で生きていく以上、これも避けては通れない。
謁見は明後日の午前中に行われるらしく、明日もマクスウェルによる指導が予定された。
命を救われた恩義のある国で、そこのトップである王との謁見だ。俺でも無礼を働くつもりはない。無難に終えるためにも、マクスウェルの指導を素直に受け入れた。
そして、当日までには付け焼刃もいいところの礼儀作法を身につけて、辛うじて謁見に臨むことができるレベルになったというわけだ。