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やけっぱちの闘い

 猿のような頭を持つ化物としか形容しようがない怪物だ。あれと戦えと?

 しかもタイマンでだ。いくら勇者だからって、難易度高すぎるだろ。

 こちとら、たった一回の初陣をゴブリン相手に済ませたばかりだぞ、馬鹿野郎!


「冗談じゃねぇぞ。これじゃ俺は捨て駒じゃねぇか」


 命を救ってくれた義理くらいは果たそうと思っていたが、こりゃあ悪党のやり口と同じだ。まともじゃねぇ。

 目の前に迫りつつあるのは化物だ。言葉は通じないし、逃げ道も塞がれた。街を捨てて逃げたところで、野垂れ死ぬのが関の山だろう。せっかく拾った命だからこそ無駄にしたくはないんだがな。



 どうやら、やるしかねぇみたいだな。今更文句を垂れてもどうにもならん。

 舌打ちをしつつ思う。世界は変わっても、世の中がクソなのは変わらないってことかよ!


「いいぜ、やってやる。掛かってこいよ!」


 半ばやけっぱちで拳を構えて叫ぶと、化物は呼応するかのように雄叫びを上げながら向かってきた。

 木々をなぎ倒しながらの重量感ある突進だが、不思議と恐怖は感じない。

 巨体を屈めての低い重心の突進だ。体当たりしながら鋭い牙で噛み付こうとでもいうのだろうか。

 負けて死ぬにしても、あれなら一瞬でくたばりそうだ。苦しむ必要がないのはいいことだな。


 意識を集中し、覚悟を決めて化物の動きを見定める。


 ……あの時と同じだ。化物の動きがゆっくり見える。

 凄い勢いで向かってきているはずなのに、俺の感覚では化物がノロマな老いぼれのようにしか見えない。


 試しに足を踏み出すが、こっちは自然に動ける。

 まるでスローモーションの世界の中で、俺だけが普通に活動できるかのようだ。これが勇者の力って奴だ。


 この前は夢中だったが、今回はよりはっきりと分かる。

 ゴブリンよりも遥に速いはずの化物にもかかわらず、手に取るように動きが分かってしまう。



 前回以上の不思議な感覚にとまどいながらも、敵を前にして悠長なことばかり考えてはいられない。

 ノロマながらも迫りつつあった化物の突進するコースから外れるように動くと、化物は慌てたようにコースを修正する。

 だが、それも遅い。


 これだけ見ればもう彼我の速度差は十分に把握できる。

 熟練のマタドールのように、化物を余裕をもって引き付けると、ゴブリンの時と同じくすれ違いざまに拳を叩き込んだ。


 硬い。悲鳴でも上げたのかくぐもった声が聞こえるから、ノーダメージではなさそうだが、ゴブリンのように一撃必殺とはいかないらしい。

 速度差にものを言わせて、回り込みながら化物の立派な体躯を殴りまくる。

 サンドバッグ状態に近いが、それでも化物は怒り狂って倒れる様子はない。このままじゃ、殴り殺す前にこっちが疲れてへばりそうだ。


 体が硬いのなら次の手だ。悪党の俺が化物なんぞに遠慮などするわけがない。

 容赦なく外道戦法を実行する。人間相手なら顰蹙ものだろうな。

 巨体を屈めてタックルでもするように突進してきた化物に対して、またもやマタドールのように身をかわすと、すれ違いざま今度は親指を立てて、目玉に思い切り突き込んだ。


 絶叫しながら暴れ狂う化物からは一旦距離をとって観察する。

 効果覿面だな。同じやり方で残った目も潰せば、時間は掛かってもあとは一方的にタコ殴りにして終わりだろう。

 疲れそうだが、今は他に手がない。

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