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81 おるすばんふたり、アドニスのばん。






前人未到のような場所に行くなんて、そもそもがおかしいのだ。


出かけるならもっと良い場所がある。

穏やかで美しい海辺や、立派で見応えのある建築物があるような。きちんとした余暇を過ごせる、つまり人の多い場所だ。


「そこに大きな洞窟があってね」

「……ほう」

「なんと! 全部が水晶でできてるんだって!!」

「……ああそう……だから?」

「えっと、ね……だからね……」


急に勢いが削げたのは良い傾向だなと、腰に回した腕に力を入れた。

まるで縋り付いているように見えようが、何だろうが、そんなことは些細なことだ。


部屋に帰ってきてからご機嫌な様子のリアンが、さっさと書き物を終わらせようとしている膝の上に、自らぐいぐい座ってきた時点でアドニスは良い予感がしていなかった。


それはそれは楽しげに語ったのは、ちっとも楽しくない話だ。


「あのね、だから……」

「うん?」

「行って見てみたいなぁ……って」

「……だろうな」

「魔……術に使うのに……質が良い水晶が……採れるから……」

「お前が魔術?」

「違うけど」

「そうだな」

「採るのを手伝いたいなぁ……ってね」

「だろうな」



お館様(ばばぁ)め、余計な話をと心中で盛大に吐き捨てながら、アドニスはリアンの首元に額をぐりぐりに押し付けた。


なにも危険なことは無い。

この大陸一の魔術師と行動を共にするのなら、リアンはこの大陸一安全なのだ。


自分が始終一緒に居るよりも余程、と思える程にも信用はしている。


でもだからといって、気持ちよく行ってこいとは言えない。


リアンはもちろん分かっているだろうが、自分でさえも自分の性格は厄介で面倒なものだなと思う。


「だから…………行ってもいい?」

「どうせばばぁには俺を丸め込んで、約束を取り付けるとか請け負ったんだろ?」

「…………それは……」

「俺がゴネるだろうけど、甘えて頼めば許されるって」

「ぅ……えへへ?」

「甘えてくるってことは、なんだ。五日ほどか?」

「…………十日ほどかな?」

「はぁ?!」

「だって他にもね」

「……俺がゴネるのは分かってるんだよな?」

「でもアドニスは『行っちゃダメ』って言わないもん」

「この…………お前なぁ。そういうとこばっかコンラッドから見習うなよ」

「……バレた!」


行って欲しくないし、行かせたくない理由はと聞かれたら、即座に百個は言える。


ただ『駄目だ』のひと言だけは、言ったら終わりのような気がしている。


世界を広げてやると、色々なものを見せてやりたいと、それをするのが例え自分以外の誰かだろうが、必ずと心に決めた。


いちいちリアンに告げたりせずに、手前勝手な誓いだが。


曲げてしまうのはリアンに対する裏切りで、曲げてしまえばリアンだけではなく、自分まで自分を見限ることになるだろう。


「……いいか、気を付けろよ。ばばぁの言うことをよく聞け。約束しろ」

「……アドニス!」

「なんだ」

「大大大だぁ────い好き!!」

「…………知ってる」


ただ、今これからと、帰ってきた時は覚悟するといいとは敢えて言わず、アドニスはリアンを抱えたまま立ち上がり、そのまま寝台に直行した。





十回寝たら帰るからね。


アドニスは最初の三日は不貞腐れて……以下略、前話参照。



日に日に枕からリアンの匂いがしなくなってきたので、アドニスは明らかに諸々のやる気が減退していった。


周囲から鬱陶しいだの面倒臭いだの言われようが、どうにかできるならしているのだと開き直る。


開き直って呆れ返られる。


昼間は執務室のコンラッドの隣でぐでぐでとし、夜は食堂のみんなが居る場所でぐだぐだと酒を飲んではくだを巻く。


お館様が帰るまでは裁量が要りそうな案件は城側(あちら)に積み上げられる。基本的に砦側(こちら)ではやることが無くなるので、無為に執務室で時間を潰すことになる。


アドニスは机に突っ伏してだらだらしていたが、コンラッドは暇が過ぎてリアン担当の過去書類の整理をてきぱきとこなしていた。


「ほんとクソですね」

「…………だから俺も行かせれば良かったんだよ」

「私は大賛成ですけどね。きっとお館様が大反対されますよ」

「あっそー」

「行けば行ったで、誰彼構わずのべつ幕なし一挙手一投足に口煩いし面倒そうですから」

「いやいや。寛大な男だよ、俺は」

「はっ…………ソウデスネ」

「鼻で笑われてもいちいち怒ったりしない鷹揚さ」

「リアンさんが絡むとてんで駄目男ですね」

「どうしてこうなった」

「知りませんよ」

「…………はぁーあ」

「今度ため息吐いたら殴らせてくださいね」

「…………厩舎いってこよ」

「わぁい! やったー!! そのまま日暮れまで警邏に行ったらいいのにー!!」





予定というのは前もってそのように決めておくから予定というのだ。

あらかじめ決めた計画を実行させる為にあるものだ。


余裕を持って日程を多く確保したり、逆にやることを詰め込みすぎて時間が足らず超過したり、そういうのは予定とは言えない。


大人なら、己の持つべき知識や判断力、それを使いこなせて然るべきなのだ。


つまりはお館様(ばばぁ)ご一行様は、繰上げも引き伸ばしもせず、きっち予定の通り十日でご帰還とあいなった。


アドニスはもしかしたら早めに帰ることもあるかもと期待し、数日前からそわそわし、一日一日が恐ろしく長く感じたが、それは誰にも知られないようにしようと誓う。




リアンは手の中に握り込める程の小さな結晶をおみやげだと手渡した。

透明な水晶の中には小さな金の粒と黒い針状の鉱石が閉じ込められている。とても珍しいものらしい。


私が見つけたのだと得意そうに笑う顔が可愛い過ぎてアドニスは裏返しになるのではないかと思う。表裏ではなく、身体の内側と外側のことだ。



帰ったらリアンを愛で倒すことは決まっていたので、各方面から引き留められる前にあらかじめ、部屋にこもるから構うなと言っておいた。


予定の通りに実行するのが、知識と判断力がある大人というものだ。


荷解きしようとするリアンを確保して、アドニスは長椅子まで連れて行きぎゅむぎゅむに抱え込む。


「十日は長いわ……」

「わたしも同じこと思った」

「しばらく離さんぞこらー」

「うはは……アドニス苦しい!」

「…………楽しかったか?」

「うん! すごーく!」

「そうか」

「壁とかからね、ぶわって生えてたよ」

「水晶が?」

「うん! キノコみたいに、ぶわって。あちこちに、たくさん」

「……へぇ、きのこねぇ……洞窟全部が水晶でできてるのかと思った」

「アドニスもそう思った? 私もそう思ってた!」

「違ったかぁ……」

「違ったねぇ……」

「見られて良かったな」

「うん! きれいだったなぁ……」

「だろうな」

「一緒に見られたらもっと良かったのに」

「うん?」

「すごくきれいだったけど、アドニスにも見てもらいたかった」

「リアン」

「一緒に見て、すごいね、きれいだねって言えたら良いのにって思った」

「……………………こんなのありか」

「なに?」

「お前のかわいさは底無しか!」


長椅子に押し倒して口付けを浴びせ倒すと、リアンはやめてと笑ってじたばたする。


胸がぎゅうと締め付けられて、息もままならない。アドニスは狭くなったその場所に、意識して空気を送り込んだ。


上下逆さまになるように、ひっくり返って腹の上にリアンを乗せた。


力一杯抱きしめたついでに、ふわふわしているリアンの髪を手に取ってぎゅうぎゅう握る。


「今度はふたりでどっか行くぞ」

「え?! ほんと?」

「本当」

「ぜったい?」

「絶対」

「やくそく?」

「約束」

「アドニス! 大大大大だ────い好き!!」

「……知ってる。俺も好き」






好きと言う度に首まで真っ赤になる我が妻につられる自分の顔は見られないように。




アドニスはリアンをぎゅうぎゅう抱きしめて、心の中で大きく感嘆の声を上げる。

















はい!!

どうもお久しぶりでございます、皆さま!!


お楽しみいただけましたでしょうか。

そうであったら幸いです。



このたびユニークアクセス20000を突破いたしました!!めでたい!!オーイエー☆

てことで、今回は嬉しみの小話追加させていただきました!!


みなさまのおかげでございます!!

ありがとうございますありがとうございます!!



今後もなにかしら理由を付けては小話追加していくと思いますので、これからもどうぞご愛顧賜りますようお願いいたします!!




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― 新着の感想 ―
[一言] ユニーク数、2万! おめでとうございます!!! この二人はもうホントに神カップルです。 お館様が誰か分かってるから、色々想像して楽しめました。 有難うございます!
[一言] よかった! 二本立て!ほんとうにありがとう!!! >予定の通りに実行するのが、知識と判断力がある大人というものだ。 それな!!! いいぞアドニス 大人は大人らしく大人っぽい理由をつけて我が儘…
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