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105 あなたとわたしと『かわいい』






連載続けてたらだいたいそのくらいの話数だろうってことで105です笑。





たくさんの方に読んでいただきまして。


感謝感謝の小話です。

お楽しみいただけますように。



ただいちゃいちゃして終わります。



では、どうぞ。

















「…………は?」

「なにが?」

「なんだよ」

「どうしたの?」



暦の上では夏がやってきたのだが、この城砦のあるお山は少し違う。


山肌にしつこく残っていた雪がやっと消え、わずかながら散らばるようにある草や低木が緑色を濃くしようと頑張っている。


陽射しは強く、照りつけるようだが、冷んやりとした風があるので、下界のような夏らしさはない。


それでも砦を囲む湖には、夏らしい紺が滲んだような空と、くっきりした形の真っ白な雲が、上空とそっくり同じに鏡写しになっていた。


ここまで見事に晴れる日は一年を通しても、多いとは言えない。



リアンは自分の部屋から露台に出て、白く刺さるような陽射しと、からっと乾いた空気を堪能していた。


露台の床にぺたりと座り込んで、日向ぼっこをしながら、腰高の手すりの間から見える湖をながめている。



いつもと同じく犬猫をかまう調子でリアンを探していたアドニスは、影のようになっている部屋の中から、陽の降り注ぐ露台にいるリアンを見つけた。



心臓に悪いと思ったことは何度もあったが、今回はどうも種類がいつもと違う。



アドニスはむうと顔を顰めて、陽の当たる露台に出ると、リアンの真後ろに座り込んで、背中からぎゅうぎゅうと抱きしめた。


「怒ってるの?」

「怒ってないぞ」

「だって顔が」

「なんだ、男前か?」

「どんな耳してるの?」


装いも薄着になってきたので、首回りや袖口からは白い肌がのぞく。

見えている部分に軽く何度も口付けると、身を縮めてくすぐったいとリアンは笑った。



砦で迎えた三度目の夏。


今までほぼ毎日見ているはずのリアンの姿。


毎日見ているはずなのに、たぶん、それだからこそ。


今になって変化に気が付いた。

己の目の節穴加減にアドニスは呆れるしかない。



ふにふにと摘んで引っ張っていた頬を、滅多に摘まなくなったのはいつからだろう。

身体が悪かった時に痩せていた感じとも違う、子どもらしい丸みのなくなった頬。


幼さが見えるような額と、まん丸でぱちりとした目は、そこはかとなく落ち着いた雰囲気になった。


いつまで経っても砦では年下だから、周りから可愛がられてきたし、今でもそれは変わらない。


なのに。

これまで前面に出ていた『かわいい』だけでは、それだけではもう済まなくなったのだとアドニスは改めて確認した。


「くそったれ。なんだよ」

「えぇぇぇええ? なんのはなし? わたし?」

「お前だよ」

「なんにもしてないのに〜?」

「いーや、したね」

「何したの?」

「…………教えない」

「えーーーー? それで怒るの?」

「怒ってない」

「……だったら何、その顔」


素直に綺麗になったと口で言うのは、アドニスにとってかなりの胆力が必要だ。

それに口にしたところで、リアンは軽く流しそうな気しかしない。


真剣に言えば説教だと思われるのがオチだ。


むっすりしたままのアドニスは、細っそりと変わってしまったリアンの頬を、久しぶりに鷲掴みした。


やっぱり感触が変わってしまっている。


「……はぁ? なんだよ」

「ん〜い〜た〜い〜」


ぐいぐい腕を押し返されたので、掴むのをやめて、指でそっと頬の輪郭をなぞる。

そのまま首に手を添えて、音だけは派手な口付けをした。


「…………もう! なに、変なの!! どうしたの、アドニス」

「うーん……どうしたんだろう。どうしたと思う?」

「知らない!」



前と比べれば身長も伸びたし、抱き上げた感じでは重くなったような気がする。

アドニスは斜め上を見ながら、体つきはどうだろうか、思い出そうと試みる。


眉を顰めて固く目を閉じた。

裸も見慣れすぎたから前とどう違うのかがよく分からない。


それならこれから寝台の上で確認してみれば良いのかと、リアンをくるりと横に向けて、背を支え、膝裏に腕を差し入れた。


抱き上げられるのを察して、落ちないようにリアンはアドニスの首に腕を回す。


「はは……いいぞ、リアン」

「…………なにが?」


もう一度口付けようと顔を近付ける。



扉を叩く音と同時に、大きく開かれ、空気が激しく入れ替わる気配がした。



「さぁさぁ、貴女のシャロル。満を持してのご登場ですよ!!」

「………………………ちっ」

「あらあら騎士団長様。貴方様のその舌打ちで、私の胸の内が澄み渡る本日の空の様です」

「…………お前、どこかから見てるだろ」

「妄想甚だしいですこと」

「扉の外で機を狙うとか、暇なのか?」

「あら、私が来たら不都合なことをされるおつもりでしたか? ざまぁご覧あそばせ!!」

「どうでもいいから出て行け!!」

「勢いで押し切ろうとするあたりで愚昧が滲み出てますね!!」

「お互い様だぞこら!!」


とりあえずこの辺りまでは一連の流れなので、リアンはふたりが落ち着くまで見守ることにしている。


これは良いほうの言い方だが。


くすくす笑って見ていると、その笑顔にすっかり気を良くしたシャロルが、侍女然と姿勢を整えた。


「では、リアン様。準備が整いましたので参りましょう」

「準備? 何のですか?」

「そうだぞ。今日一日は何の予定も無いはずだ」

「はぁ? 団長様がお呼びになったんですが?」

「んん? 何だよ」

「仕立て屋の方がお越しです」

「…………あ」



王城から招聘されたお館様は、面倒ごとをそっくりそのままアドニスに丸投げし、反論されるより前に、夜でも虹がかかるような大瀑布を見に出かけていった。


国をふたつ跨ぐような遠方だ。


鬱屈とした想いを吐き出す方向を失ったアドニスだったが、今回の旅にリアンを連れ出さなかったので溜飲を下げることにした。


王城に行けばついでにリアンは実家に立ち寄れる。


ふたりだけで遠くへ出かけるのは久しぶりだねと、嬉しそうな笑顔を見たから、アドニスはやっと気分を持ち直した。



建国の祝いだか何だかで、他国からも王族を招いての盛大な宴らしい。


同伴するリアンにそれなりの衣装をと言い出したのは、アドニスからだった。


ふたりともお洒落に関しては門外漢なので、シャロルに全てお任せしていたのだ。


「……しょうがない。行くか、リアン」

「団長様は付いて来ないでください」

「何だよ」

「鬱陶しいので」

「仕立て屋は男か?」

「ほら面倒くさい」

「男なんだな?!」

「お館様が懇意になさってる方です。ご心配要りませんよ。老紳士にさらっと触れられるのと、私がねっとり舐めるように触るのと、どちらがよろしいでしょうか?」

「…………くそぅ」

「ふふん。では、リアン様。参りましょうか」

「はーい。行ってくるね、アドニス」

「…………俺も行く」

「しつこい男ですね。何ですか? 後からリアン様を採寸した結果をお知らせしたらよろしいですか?」

「お前なんだ心が読めるのか」

「ふ…………団長様の考えくらい、読まずともたかが知れてるってんですよ」


シャロルと仲良く喧嘩しながら、結局アドニスは城側との境目までリアンを抱えて運んだ。






今までに砦は何度か、お館様と騎士団長の両名が不在になる、ということは経験した。


今回はこれまでより長期になりそうなので、淡くではあるが緊張感がある。


引きこもりのお館様でも、人に甘い騎士団長でも、居ると居ないでは違うらしい。



捌かなくてはならない仕事は、それなりに積み上げられていた。

といってもアドニスがするのは、副長のコンラッドが裁可待ちの書類に目を通して、署名するか、上手くなければ差し戻すだけなのだが。


日が暮れて夕食後も、アドニスは書面とにらめっこしていた。


「……んー……まだかかる?」

「いやー……もうやめる」


寝台にうつ伏せて本を読んでいたリアンは、本を片付け、枕をぼすぼす叩いて形を整える。


背もたれに全体重をかけていたアドニスは、読んでいた紙を裁可の山に置かずに、その横に並べた。

寝ながら考えて、明日の朝に結論を持ち越すことにした。


あちこちのランプを消して回って、最後にリアンの枕元に置かれた灯りを消した。


するっと寝台に入ったアドニスは、リアンを引き寄せて抱える。


「うう。アドニス寒い」

「夜はまだ冷えるな……あっためてくれ」

「やだ……寒い」

「お前のぬくいと交換な」

「うーやーだー」

「おお、よしよし」


もごもごしているのを腕や脚で雁字搦めにすると、リアンは観念してぎゅうと身を小さくして耐えようとする。


まだまだ前面に張り付いた『かわいい』は健在のようで安心した。

それに今後も、できれば少しは残しておいてもらいたい。


「リアン?」

「うん?」

「衣装は何色に決めた?」

「黒だよ」

「黒?!」

「だってアドニスが黒だもん、お揃いにしたいなと思って」


ストックロス砦の騎士たちは、お館様の魔術師のローブに合わせて、光を吸い込むような漆黒の騎士服を身に纏っている。


「お……おぅ……そうかぁ。お揃いな」

「なに? 何色が良かったの? ま、今さら変わらないけど」

「いや……お前がお揃いが良いなら文句は無いです」

「しゅっと大人っぽくして、城中の男どもの視線を独り占めです!」

あいつ(シャロル)……余計なことを」

「そしたらアドニスが面白いからって」

「は? なんだよ、面白いって」

「あちこちにやきもち妬くんでしょ?」

「…………うゎ」

「妬いてるとこ見たい」

「んん? これは……『かわいい』か? 『かわいい』な!」

「んふふー……出来上がりをお楽しみに!」





深く考えずとも、リアンのこの美しさなら、言った通りに周囲の視線を集めそうなのは容易に想像できた。


それだけで、今もうこの時点で、その仮想野郎どもに悋気を起こしている。


そんな醜態を晒さずに済むように、今から自信を付けて、心を強く持つ準備をしようと決めた。


……まぁ、それは明日から実施するとして。




アドニスは昼間に中断されてしまった、リアンの成長具合の確認作業を再開することにした。
















今の私に足りないのは甘味といちゃいちゃだと気付いたので、手っ取り早くいちゃいちゃできる人たちにしてもらいました。


ははは!すっきりした!!

文化の日イエイ☆





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― 新着の感想 ―
[一言] またこの話のこのような番外編を出して欲しいです 検討よろしくお願いします
[一言] あま────────い!!! けどなんていうか、このふたりは爽やかだよね!! 言うたらチョコミント!!……とか言いたいけどダメ! 私チョコミント嫌いだから!! でも色味は好き!!あとイメー…
[良い点] とても面白く一気に読んでしまいました 他の作品も見てみたいと思います 他の作品も更新頑張ってください
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