67
「でも、あの女はアタシたちを『姉さん』と呼んでたわ!!」
「ウソよ! そんなはずはない! アタシたちが、あんな女に負けるなんて!」
「ああ…ワール! 寒い、寒いわ! 機械の身体なのに!」
「アタシもよ、イジー! 寒い! イヤよ、こんなのはイヤよ!」
「何も見えなくなったわ! ワール! ワール!」
「イジー、ここよ! アタシはここに…」
深い霧の中、イジーとワールの声は、とうとう聞こえなくなった。
レラは走った。
何度も転びそうになるほど慌てていた。
あれほど憎んでいた2人の姉たちの最後さえ、見届けないほどに。
(メフィスト!)
頭の中はボサボサ髪の変人の屈託のない笑顔で、いっぱいになっていた。
レラは倉庫を飛び出す際に、メフィストの首が2人の姉たちによって、はね飛ばされるのをハッキリと見ている。
それでも。
それでも走った。
何か奇跡が起き、メフィストがレラを迎えるのではないか?
「やあ、レラ、どうした? そんな顔して?」
そう言って、あの、すっとぼけた表情を見せるのではないか?
そんな、いちるの望みがレラを突き動かした。
レラは倉庫へと転がり込んだ。
彼女を迎える声は、なかった。
床には首のないメフィストの身体と首が転がっていた。
首は下を向き、血溜まりが出来ている。
レラはメフィストの首に駆け寄り、両ヒザを着いた。




