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気のせいか、空気がピシピシと音を立てたようにイジーは感じた。
それも束の間。
女は切断された左脚を伸ばし、新たな脚を造ると、後方の霧の中へと姿を消した。
「チッ!」
イジーは舌打ちした。
くだらない心理戦を仕掛けてくる、イラつく奴。
声も、そっくりだった。
しかもアタシとワールが使う「あだ名」まで知っていた。
あれは極々、近しい者しか知らないはずなのに。
ああ、気持ち悪い。
再び、イジーは歩きだした。
本物のワールを捜さなくては。
あの女が、ワールを襲ったとしてもアタシと同じように、すぐに見破られるはず。
残りの心配は、あの女が逃げだすこと。
まあ、逃げたとしても、さっき殺した男と倉庫を調べれば女の正体は分かるだろう。
イジーは、そう考えていた。
前方の霧の中に影が動いた。
「イジー」
ワールの声。
ワールが現れた。
「無事だったのね、ゴールドローズ」
「ええ、シルバーローズ」
イジーが答える。
2人は、お互いをじっくりと眺め。
両手を広げ、ハグし合おうと近づいた。
手が届く範囲まで2人が進んだ、瞬間。
2人の掌中から出現したビームソードの赤と青の光が、お互いの顔面を右ホホから左眼の上を通り、頭頂部まで斬り飛ばした。
美しい顔は斜めに切断され、お互いの電子部品が火花を散らした。
「「ウソよ!!」」
2人が、同時に叫んだ。
そう、信じられない事態が起こっていた。
2人が戦っていた女は、姉妹の姿への変身が可能だった。
しかし、赤と青のビームソードは持っていない。
と、いうことは今、お互いの頭を斬撃で切断し合った2人は。
本物同士であった。




