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通信機からは、雑音が洩れるのみ。
ジャミングされてる?
小賢しいわね、あの女!
イジーは仕方なく、スクラップの壁を右方向へと、回り込み始めた。
霧は、さらに濃くなり、ほんの少し先しか見通せない。
しばらくすると。
「イジー」
声がした。
霧の中に見慣れたシルエット。
ワールだ。
「良かった。見つけたわよ、ゴールドローズ」
それはワールがイジーを呼ぶとき、ごく稀に使う愛称。
イジーはワールを「シルバーローズ」と呼ぶ。
「あの女は?」
イジーが訊いた。
ワールが首を横に振る。
「じゃあ、捜しましょう」
イジーがワールに背を向けた。
刹那。
ワールが、イジーに右脚のハイキックを放った。
「笑わせるなよ、このマヌケが!!」
すでに敵の攻撃を読んでいたイジーは頭を下げ、楽々とかわすと振り返り様にビームソードの斬撃を繰りだした。
ワールの左脚が、ヒザの部分で切断される。
その姿はグニャリと溶け、先ほどまで姉妹が戦っていた女へと変わった。
「アタシたち姉妹は、強いキズナで繋がってる。姿形をマネしても無駄。ちょっとした仕草や身体の動かしかたで、すぐに分かるのよ!」
イジーが笑った。
「?」
その笑顔が消えた。
女の右手が伸び、イジーの左肘に指先が触れていた。




