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「『バイパー』の仲間に連絡して、応援を待つ選択もある。仲間が来るまで、あたしの攻撃を耐える闘志があれば出来たはず」
「ウグ…」
「お前は、どちらも選ばなかった。お前が選んだのは」
女の語調に侮蔑の色が混じった。
「逃げること」
「………」
「あたしかもしれないアンドロイドを連れていく勇気もなく、本体1人で逃げだすこと。お前が選んだのは、それだ」
「………」
「おかげで、本当のお前が分かった」
「た、助けてくれ!!」
テンマは、わめいた。
必死の叫び。
「何でもやる! 金なら、今の倍を出そう!『バイパー』に入れてやるぞ! 俺の右腕になるのはどうだ!? 殺し屋風情より、ずっと贅沢が出来るぞ! 頼む! 助けてくれ!」
懇願しながらテンマはふと、思い出していた。
脳裏に浮かぶ、微かな記憶。
泣きながら「助けて! 許して!」と言っていた女が居たような。
あれは、誰だった?
あの女は許されたのか?
いや…あの女は…。
「シーア・デスモティア」
女の声。
そう。
シーア・デスモティア。
その言葉も、どこかで聞いた。
あれは…。
テンマの脳天に、女の右正拳突きが叩き込まれた。
装甲をぶち壊し、テンマの脳がひしゃげ、四散した。
テンマは死んだ。
観客が誰も居ない劇場で、主を失った事実も理解せず、ただただ命令を待ち続け、立ち尽くすアンドロイドたちだけが残った。
劇場前に停まったエアカーの車内で光る、2組の眼光。
辺りは夜の闇。
劇場から出てきた通常モードのレラを見つめる。
「操り師」テンマとの戦いで、レラはエネルギーを使い果たしていた。
「「見つけた」」
車内の2人が、同時に言った。
「バイパー」の幹部マンマ・ハッハの2人の娘、イジーとワール。
「知らない女ね」とイジー。
「あの女が、みんなを殺したのかしら?」とワール。
「そんなに強そうには見えないけど」
「確かにそうね」
ワールの言葉に、イジーが同意する。




