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テントは快適な温度に保たれ、族長が焚いた香の匂いと煙が充満していた。
「ジェロニムよ」
族長がシワだらけの顔をジェロニムに向け、呼びかけた。
ジェロニムが頭を下げる。
「挑戦されたそうじゃな」
「はい」
ジェロニムが答えた。
完全な無表情だ。
ジェロニムの外見は浅黒い肌の筋肉質の巨漢であったが、その骨格はサイボーグ手術によって、全て人工強化骨に差し換えられていた。
中枢神経も筋組織も改造され、規格外の身体能力を持つ。
髪の毛は長く、後ろで束ねていた。
「弱さは罪じゃ。必ず勝て」
族長の言葉に、再び頭を下げるジェロニム。
「染料をここへ」
族長がテントの入口に立つ、じっとこちらを見ている少年を手招いた。
美しい少年だ。
背中や腕に、地獄の番犬ケルベロスと炎の画の刺青を彫っている。
これは部族の者は、全員が彫る掟だ。
ジェロニムと族長の身体にも、同じものが彫られていた。
少年は何種類かの色の染料が乗った丸い盆を両手で持ち、ジェロニムの前へと進み出た。
向かい合って座る。
少年の眼は潤んでいた。
興奮しているのか、呼吸する度に胸が大きく上下している。
「お前の敵が、お前の故郷を戦いの場に選んだのも運命。必勝の戦化粧をしていくが良い」
族長が言った。




