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それが男の名だった。
「バイパー」の幹部マンマ・ハッハの部下「闇爪」のキシャール。
「お前たち、ハメを外しすぎたな」
DJのマイクを使い、キシャールはフロアの人々に呼びかけた。
「身の丈を忘れた、お前たちには相応の代価を払ってもらう」
キシャールがニヤーッと笑った。
「すなわち、死だ」
キシャールが、そう言うのと同時に、すでに入り込んでいた手下が建物の照明を切った。
ダンスフロアは完全な闇に包まれた。
人々は恐怖にザワザワとなった。
そして。
次々と、すさまじい断末魔をあげ始めた。
パニックが起こった。
我先に出口へ殺到する。
しかし、全ての出入口は「バイパー」の戦闘員たちによって、封鎖されていた。
誰も外に出られない。
そこは闇の狩場だった。
「バイパー」を舐めすぎた者たちを、いたぶり殺す狩場。
「闇爪」キシャールのフィールドだ。
しばらくすると、人々の悲鳴は聞こえなくなった。
それは、全ての獲物の命が奪われたことを意味した。
暗闇の中、唯一、動いている影。
それがキシャールだ。
キシャールは視力を失った代わりに、超感度の聴力を手に入れるサイボーグ手術を受けた。
同時に喉にも。
喉から音波を放ち、物体で跳ね返ったものを超聴力によって把握する。
そうすれば、暗闇でも敵の動きが完全に分かる。




